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風は穏やかで気持ちいい初夏の午後。 ―――― 。







「邪魔です。アルベーさん。どいてください。」

クレア・ラーズバードは、書類の入った大きなダンボール箱を3個も重ねて持ち、イライラしながら廊下に突っ立ているアルベルに言った。
「ふざけんな! 俺の名前を中途半端な略し方しやがって!」
「アナタの名前なんか最後まで言う気にはなれません。邪魔です。さぁどいてください!」
アルベルはムッとしながらも、脇に避けた。
そして目の前を通り過ぎるクレアを見て思った。
・・・しましまぁ、あんな細腕でよくアレだけの荷物を持ち運べるもんだ・・・・・。女ってのはわからん。






アリアスの屋敷は今、バタバタしていた。
戦争が終わりその残務処理も終わり、この本部はシランドへ引き上げる事になった。
その後片付けをしている最中なのである。
タイミング悪いときに来てしまった・・・・。とアルベルは思った。
ここに居ても邪魔扱いされるだけなので、外に出る。
すると、ネルがその屋敷の玄関の脇にしゃがんでボーっとしていた。



見上げれば、空は青く晴れ渡り、風は穏やかで気持ちいい初夏の午後。


「何してんだ? テメェ? 手伝わなくていいのかよ?」
「ん?」
ネルはふと顔を上げアルベルを見たが、なんだアンタか。と呟きまた視線を落とした。
「手伝うつもりで来たんだけどさ・・・・・・。」
「ははーん。さては、あの女に邪魔扱いされたな?」
アルベルは軽い冗談つもりだったのだが、ネルは笑う事も怒る事もなく、顔を背けた。
(図星だったのか・・・・。)
しまった、とアルベルは思う。
アーリグリフにいるはずのアルベルが、何故こんな所にいるかというと、単にネルに会う為だった。
しかしその思いは本人にはまるで届いていない。


ネルを含め、ここにいる全員が。・・・・・・・クレアを除いて。
アルベルが何の為に、時々ここを訪れるのか不思議に思っていた。


「クレア、昨日から突然機嫌が悪いんだよ。昨夜、他の子達も一緒に遅くまで飲んでたんだけどさ・・・。」
ネルがしゃがんだままポツリポツリと話し始める。
アルベルもネルの隣に腰を下ろす。
「最初は楽しく飲んでたんだよ。それが急に怒り出してさ・・・。皆も理由なんて全然わからなくてね。
 それでつまんなくなって、お開きにしてそのまま寝ちゃったんだけど。
 朝起きても、まだ機嫌悪いんだよ。
 アタシなんか、今朝いきなり「ネル、アタナ手伝う気あるの? さっきから余計な仕事を増やしてるばかりじゃない!」って。」
少し声のトーンを上げクレア口調を真似して言うネルに、アルベルは驚いた。。
こんな友達のことでブツブツ言うネルは意外で、コイツ、こんな一面もあるんだな・・・となんだか可笑しくなった。


「テメェが、アイツの気に障る事でも言っちまったんじゃねぇのか?」
「・・・そうかねぇ? そんな事言ったつもりはないんだけど。
 だいたい、その時の話題ってクレアに関係ない話だよ。・・・・・アンタだよ。」
ネルが顔を上げる。

アルベルと目が合う。思っても見なかった事を急に言われてアルベルも素っ頓狂な声で返した。
「俺ぇ、だってぇ??」
「そう。皆でアンタを酒の肴にしてたのさ。」
シーハーツの女共に酒の肴にされるとは・・・・。
アルベルは歯軋りをしてみせたが、まんざらでも無い様子だった。
ネルも少しニヤリとしたが、またすぐに真面目な顔に戻って続けた。
「なのに急にクレアが不機嫌になって。」
「俺の・・・・何を話してやがったんだ?」
知らないところで何を言われていたのか気になった。
しかしネルは素っ気無く、
「別に。アンタには関係ないよ。アタシらの話なんだから。」
いや、俺の話だろうが。

「ただアタシがね、アンタは見た目ほど悪い変なヤツじゃないよ、
 って言ったらクレアが突然不機嫌になって、今までと言ってる事が違うって怒り出したんだよ。」


ネルは、はぁーーーッと大きくため息を付いた。そして続けた。

「確かに最初はアンタなんか嫌いでさ・・・クレアにもよく愚痴ってたような気がするよ。
 敵だったし。髪型は変だしハラも足も出してセンスもアタマもイカれてそうだし、
 野蛮ぽいし口も悪いしチンピラっぽいし、一軍の将のくせに部下も連れずいつも一人で好き勝手やってるようだし、
 ロクな噂聞かないし、アタシの部下を蹴り転がしたし・・・・。」

言われた事の半分くらいはネルにそのまま返したいとアルベルは思ったが、黙っていた。

「けどその度にクレアが、
 アルベーさんは見た目ほど悪い変な人じゃないわよ(私は知らないけど多分)。ってアンタの弁護してたんだよ。
 それがさ・・・・・。
 昨夜アタシが、アンタと一緒に行動して、クレアの言う通りそれほど嫌なヤツじゃなかった、とりあえず信用は出来る。
 って言ったらクレア怒り出してさぁ・・・・・・。」


なるほど。
アルベルは思った。
前々からクレアのネルに対する執着みたいなものには異常を感じてはいたが。

ネルが俺を褒めた(とアルベルは思ってる)事が気に入らず、俺に対してもあんなイラついた態度を取ったというわけだな。
アレだ。女房が他の男の話をすると怒り出すアレ。
まぁクレアの気持ちもわからんでもないさ。
ヤツは今、女房を寝取られた亭主みたいな心境なんだ。
イヤ別に寝取ったとかそうゆう訳ではないが・・・。かといって全然そうでもないという事も無いが・・・。


「アンタ・・・・何ニヤニヤしてるんだい? 気持ち悪い。」
「あ? イヤ、別に。」
慌てて顔を整える。
ネルは嫌そうな顔でアルベルをジロジロ見て、それからすっと立ち上がった。
アルベルもつられてノソノソと立ち上がる。
「さて、と。」
2・3歩前に出て、軽くのびをする。
「ここでアンタと無駄話してても仕方ないし。」
俺にとっては無駄じゃなかった、アルベルは思う。


「どうしようかな。」
ネルは少し笑って、空を見上げた。
緩やかな風を受け、ネルの髪が少し揺れるのにアルベルは一瞬見とれていた。

その時、扉が思い切り開き、タイネーブとファリンが大荷物を載せた台車を押して出てきた。
「すみませ〜ん、邪魔です〜!アルベー様〜!」
「どいてください! アルベー様!」
クレア風の言い方がすっかり移っている。
その後ろからダンボール箱を4つ重ねて担いだクレアが現れる。
「何してるの!? ネル! 遊んでる時間があるなら手伝ってちょうだいな。」
「え? でもさっきは・・・・。」
「アルベーさんも! 少しは手伝ってくれてもいいんじゃないですか?
 そんなトコでボーっと突っ立てられるのは、はっきり言って邪魔です。
 手伝う気がないなら、さっさと帰ってください。」
クレアはそう言いながら、パキパキと荷物を運んでは庭に置き、また中へ戻って荷物を運び出してくる。
ネルはチラリとアルベルを見た。それから軽く首を振り「手伝うよ。」とクレアに声を掛け屋敷の中へ入って行った。


アルベルも黙ったまませかせかと荷物を運び出す彼女達を見ていたが
「仕方ねぇな・・・。手伝ってやるか。」
と呟き、屋敷の中へ向かった。
入り口で一瞬足を止め、大きく振り向き、空を見上げた。



気持ちよく晴れた 初夏の午後。








 




アルネル? 何時もの阿呆SSの延長ですが。こんなクレアさん。
ただ、「邪魔ですアルベーさん」をクレアに言って欲しかっただけの話です。すみません(苦笑)。