バレンタイン





その日が近づいてくると、フェイトとクリフの行動が明らかに変わった。
傍から見ていても、はっきり違いが分かるほどだった。
どうゆうわけか、女の子達の仕事を手伝ったり、愛想を振りまいたり、そわそわしたり。
アルベルは気味悪く思い、そんな視線を二人に送った。

それに気が付いたフェイトが、その日について説明した。

バ レ ン タ イ ン デ ー

「ばれとらんでー?」
アルベルは繰り返した。

「いや違うって。」
「そんなバレたら困る事、してないし。」

フェイトらの世界には、可笑しな風習があるもんだとアルベルは思った。
「そんなチョコなんか、あげたり貰ったりして、何が面白いんだか。」

「バカだな、お前。チョコは男の勲章だぞ。」
「それに女の子から告白してもらえる最高の日だぞ。」
口々に反論する宇宙人二人。

「だからって、数貰えりゃいいわけじゃねぇんだろ?」
・・・・だったら、そんな誰彼構わず愛想振りまいてどうするんだ?
アルベルの疑問に、胸張ってクリフが言った。
「数で男の価値が決まるんだ!」




その頃の街の工房。
「はぁー、頑張らないと! 気持ちいっぱい込めるんだ! そして今年こそ・・・ッ!」

ソフィアを筆頭にチョコクリエイションに励むパーティの女の子達の姿があった。
どうゆうわけか、ディプロから降りてきたミラージュとマリエッタも混じっている。
「マリアさん、それ、なんですか?」
ソフィアが隣で何かを作り出しているマリアに声を掛ける。
「見ればわかるでしょ。チョコに決まってるじゃない! 」

(チョコ・・・だったんだ・・・)

「私の気持ちたっぷりの特大のハート型なのよ!」
「・・・・・あはは・・・。でもソレちょっとやり過ぎじゃないでしょうか?」
「そお? 大きすぎかしら?」

(そもそも、ハートのつもりだったんだ・・・。)
(マリアちゃん、またやりすぎた代物作った・・・)
(一体いくつやりすぎた代物を作り出せす気なんだい? この娘は・・・)

「それにしても、大事な人にチョコあげて気持ちを伝える日なんだろ?
 バレンタインてのは。
 なんでアンタ達はそんなにいくつも作ってんだい?」

ネルがミラージュとマリエッタの方を見て言った。

「アイツら、誰からもチョコもらえそうに無いですもんね。」
「えぇ。そうですね。」

「そんないい加減・・・・」
「いいのよ、ネル。あーゆーのは  義理チョコ って言って、それはそれで
 それなりの意味あるのよ。」
「そうなんだ・・・。」

「でもこれで、ホワイトデーは期待できそうですよね!ミラージュ!」
マリエッタとミラージュは不敵に笑った。
ソレを見たマリアもニヤリと笑った。
(でもマリエッタは義理に混ぜて本命を渡すつもりみたいね・・・。ニヤリ)





「しかしだな、いいかアルベル。」

クリフは急に声を潜めて まじめな顔になった。
「一つ気をつけにゃならんチョコがあるんだ。」
アルベルもつられて真剣な顔になる。

シランドの大通りの中央にしゃがんで、バレンタインについて語り合う男が3人。
通りを行き交う人々の冷たい視線に気が付かない。

義理チョコ っていうんだがな。」
「・・・・なんだ?それは。 爆弾でも仕掛けられているのか?」


「・・・・・・そうじゃねぇよ。
 義理チョコってのは、義理なんだよ。
 とにかく誰でも構わず渡してる、特別な気持ちの含まれていない タダのチョコ の事だ。」


「それが何だ? チョコには違いねぇんだろ?」
「確かにチョコだけどね・・・。」
フェイトも言った。
「チョコ貰って浮かれていると、義理だって知ったときのショックがさ、大きいんだよ。
 なのに、一ヵ月後にはちゃんとお返ししなきゃだし。」

「だな。本命なら、コッチの気持ちの返事も込めて、ちゃんとお返しもしてやろうって気にもなるんだがよ。
 義理チョコ配っておいて、お返し遣せって女も少なからずいるからな。」
「しかもそうゆうのに限って、文句の一つでも言おうものなら、「アナタ、誰からも貰えそうになかったから。」とか  失礼な事を平気で言ってくるんだ! 気をつけろ! アルベル!

「・・・・悪どい女だな、ソレ。」




クシュン。
その時、工房でくしゃみをした者がいた。

とりあえず、それぞれのチョコが完成したのか、皆は色とりどりの包装紙でラッピングを始めていた。
「ジェミティ市で、かわいいリボンが売ってたんだけどなー。」
「十分可愛いよ、ソフィアちゃんの。フェイトちゃんも喜ぶね!」
「そんな事ないよ、スフレちゃんのも可愛らしい! 誰に渡すの?」
「フェイトちゃん! 最初のファンだもん。」
「そっか! じゃ、一緒に渡しに行こうか。」
「うん、そうしよう!」

「アラ、私もフェイトに渡すつもりなの。一緒に・・・。」

ソフィアはそんなマリアの言葉を、軽く無視した。
ソフィアにとって、スフレは恋敵になりえないと甘く見ているのか、マリアに対してだけ異様にライバル心を燃やしているのか。
とにかく、周りは黙って見守った。

「できた! こんなもんでどうだい!」
ネルもチョコを包んでいた。
「ネルは誰に渡すのよ?」
ムッとしたマリアが話題を逸らせてネルを見る。
「わかった!アルベルちゃんだね!」
スフレが口を挟む。
「どうしてアルベルなのよ?」
マリアがきょとんとする。

ソフィアは黙ったままにっこりした。
(やっぱりそうだったんだ、ネルさん。)

ネルもにっこりしながら、あっさりサッパリ言った。
「アイツも、誰からも貰えそうにないからね。」

更に付け加えた。
「そんな哀れなヤツに渡すのは、 義理チョコ っていうんだったね。」




当日。
ソフィアとマリアとスフレはチョコと渡した後も、 フェイトが誰のチョコを一番に食べるのか確認するために、一日中フェイトを追っかけまわした。

ネルは暇そうにしてるアルベルに「義理」だとはっきり言ってチョコを渡した。
爆弾でも仕掛けてると疑ったアルベルは、ネルに蹴り飛ばされた。

ディプロではミラージュとマリエッタの思惑アリの優しさが振りまかれていた。
この日にマリアから何の音沙汰もなく、ガッカリしていたリーベルを見て、マリエッタはため息を付いていた。そんなマリエッタを見てスティングも小さなため息をこぼした。
ミラージュのチョコは一つだけ余った。配った他のチョコとは少しだけ形が違っていた。
その頃シランドの街を一人うろつき、ディプロに戻らなかったクリフは、結局誰からも貰えなかった
・・・らしい。




おわり。
季節モノって事で。
ありがちな感じで纏まりました。
ネルは本気チョコなんか恥ずかしくって絶対渡せないだろーと思います。笑。