若葉のころ (ってドラマがあったね・・・)





「 ・・・・・・・・ 感じ悪いぜ」
アルベルは、その女の後姿を眺めながら、そう呟いた。
その呟きさえ無視されているようで、余計に腹が立つ。

今日は、ツイてない。
クジ運が悪い。
たまたま寄った町で、買出し当番を決めるクジを見事に引いてしまった。
買出しが嫌なのではない(面倒ではあるが)。
一緒に買出しの当番になったこの女、ネルが、なんとなく嫌だった。


クジを引いた瞬間の、彼女のあの思い切り嫌そうな顔。
それを見て、アルベルも気が重くなった。
今こうして買い物に出てくるときも、アルベルの顔も見向きもせずに
「行くよ。」と低く呟いて、さっさと宿を出ていった。
アルベルは無言のまま、ついて行くしかなかった。


彼女の気持ちはわかる。
先日まで敵どうしてお互い刃を向けてきた相手だ。
それが急にこうして行動を共にし協力しあう状況になった。
そう簡単に割り切って友好的になれるわけがない。

それはわかる。

わかるが・・・・・・。

そのあからさまに俺を避けるその態度が気に食わない。


大人だろうが。
状況を考えれば、こうして買出しに一緒に買出しに行く事だって仕方ない(そうか?)。

もう少しお互い歩み寄ろうという姿勢をだな・・・、いや別に歩み寄りたいわけじゃない。
だがこんな態度をされたまま、何を協力しろというんだ?
買出しなんかは、どうでもいい。
しかしもっと重要な事を話さねばならなくなった時に、これじゃ話もしずらい。

テメェだって、一応は人の上に立ってる立場だろうが!
いざという時、事をスムーズに運ばせる為に、どうすべきか、それくらい判るだろう!
テメェのその態度は、あきらかにそれを妨害している!
そうゆうまわりの状況ももっと考えろ!


アルベルは声に出さないまま、その背中に向かって文句ばかりを言っていた。



その時 ふと 前を歩くネルが足を止めた。


「・・・・どうした?」
アルベルは一瞬躊躇ったが、距離を保ったまま立ち止まり声を掛けた。
ネルはコチラを見ることなく、立ち止まったままだ。
アルベルも仕方なくそこに立ち尽くしていた。


少しして。
ネルが小さく呟いた。
「見て。」




その目線の先には、道の脇から伸びる樹木の枝先が風に揺れている。
アルベルは静かに近寄って、その枝先を見た。
新芽がいくつも付いている。
太陽の光を受けて、それは瞬間瞬間で色を変えていた。


「もうこんな季節なんだね。」
ネルが言う。
「戦う事ばっかりで、こんな事にも気が付かないでいた。
 今日、買出しの当番になってよかったよ。
 アタシのクジ運、意外にいいのかもね。」

それから、アルベルのほうをチラリと見て、
「行こうか。」
と言い、口の先で小さく笑った。

そして直ぐに向き直ると、また歩き出した。
その後姿は、先ほどとはまるで違うようにアルベルには見えた。
アルベルはまた、黙ってその後をついて行った。


その足取りは少し軽くなっていた。







おわり。
新芽の頃は大好きです。私も。(も?)
新芽のあの淡い萌黄色が好きです。
この時期に山に行くと、むせ返りそうなくらいの葉の匂いが充満しているのですが
そんな空気も好きです。