空色のうた 3



ついに、 死んだな、 私 。



はっきりしない 意識でそんな事を考えてみる。
意外と あっけないものだ。 
こんな仕事だし、ロクな死に方、出来ないとは思ってたけど。

一人というのは、やっぱり悲しいカナ。


何処も痛くない。

あぁ、そうか。
仕込んであった毒(多分)が回って、感覚がなくなってるのか。


クレア、心配してるだろうな。

まぁ、いいや。
任務も、後はファリンたちが上手くやってくれるだろう。
(ちょっと頼りないけどサ・・・。)

あぁ、それから、アイツ ・・・・・・。 
何か一言、言ってやりたい・・・!
いつも憎まれ口ばっかりでサ・・・。


そこまで考えて、再び意識が遠くなった。





目を開けると、見慣れた風景だった。

シランドの、自分の部屋に良く似てる。
ネルはそう思った。

目をこすってみる。 少し腕がだるい。
やっぱり自分の部屋だ。

きっと、すぐに馴染めるように、アノ世が用意してくれたんだ。


「気が付いたか。
 まったく、随分情けない様(ザマ)だな。クリムゾンブレイドのくせに。」

・・・・・ !?


聞いたことある声。
こんな嫌味ったらしい声の主なんて、そうそういない・・・。
少し首を動かして声の方を向く。


「あ。 アルベル・・・?  アンタも、死んだの?」

だってここは、アノ世。




「あぁ? 何言ってやがる?」
「だって・・・。」
「あのお節介女に呼び付けられたんだよ!」

お節介?   ・・・・・ 誰のことだろう?


「―――――”ネルの最期を看取らなかったら、一生恐ろしい事になりますよ。”だと!?
 ふざけんな、あの女・・・・ッ!!」

クレアか。 クレアだ。

最近うすうす気がついたが、あの華奢で優しそうな雰囲気のクレアがシーハーツ総司令の座に収まっているのは 戦闘や施術の実力ではなく、 人の心を、良くも悪くも、ぐいっと掴む「弁舌」じゃないだろうか。

”一生恐ろしい事”・・・・・。きっといつもの柔らかい笑顔でそう言ったんだろう。
言われた方の恐怖が、手に取るように判ってしまうのが可笑しい。
しかもそれが、コイツだなんて。

そこまで考えて我に返り、ネルは勢い良く飛び起きた。

「って事は・・・・。ここはシランド? アノ世じゃないのかい!?」
「はぁ? まだ寝ぼけてんのか? 寝すぎなんだよ!」

「・・・・・じゃあ私、死んでないんだ。」

医者の話だと、昏睡してたのは最初の3日で、後は殆ど熟睡だったらしい。
「テメェなんか、殺しても死にそうにないがな。」
この男は、ただ眠ってるだけの私にずっと付いていてくれたのだろうか。

「・・・・・・。」
呆けたようにアルベルを見るネル。

「何だ?」

「別に。」

「・・・・何だ!? 何見てやがる!?」
 
「・・・別に。たださ・・・アンタ、クレアに言われたから来たんだなーって。
 クレアの脅しが怖かったのかい??」

口の先に少し笑みを浮かべながら、横目で見つつ、ネルは言った。

「なッ・・・・! 阿呆! そんな訳あるか! あ・あんな女・・・ッ!!」
「じゃあ、心配して来てくれたんだ。」
「う・自惚れるな・・・。 阿呆・・・・。」

アルベルは、言いながら、だんだんと小さい声になり、最後の「阿呆」は聞き取るのがやっとだった。
その様子にネルが少し笑うと、ムッとしてそっぽを向いた。

それを見て、ネルはまた笑った。


後で聞いた話だと、あの時別れたタイネーブがファリンと合流した後、再びネルを探しに戻ってきたらしい。
そしてタイネーブに担がれた意識の無いネルを見て、ファリンも頑張った。
クレアの話では、ファリンは通常の3倍の速さでしゃべり、指示とか医者の手配とかしてくれたらしい。
任務の途中で引き返したタイネーブ達の行動については、 「上がそうだから、部下もそうなるのよ。責任はネルにとってもらいます。」 という事で二人にお咎めは無かったらしい。
そう言ったのは、もちろんクレアだ。

そのクレアはというと、ネルの状態を見て、特に命に別状は無いと確認をした上で、 カルサアまでアルベルに会いに自ら出向いて行ったそうだ。


「・・・・ まぁいいや。」

ネルがいつまでもクスクス笑ってるのが気に入らないのか、アルベルは乱暴に立ち上がり、くるっと背を向けて扉へ向かった。
「何が、まぁいいや” だ!? テメェなんかくたばっちまえば良かったんだ!
―――― 全く。ドコが死にかけてるだ! 無駄足踏ませやがって! 帰る!!」
「あぁ、帰りな!
全くさ・・・・、良く言うよ。
私が死んでたら、アンタ・・・・、一緒に暮らしてくれそうな人を、一から探さなきゃじゃないか。
アンタの性格に付き合える人なんて、そうそう居ないだろうから、苦労するだろうね。」

「うるせぇぞ! その減らず口、切り裂いて・・・・。 あ? ・・・・オマエ、今・・・。」
立ち止まって、半分だけ振り返り、驚いたような呆けたような表情をネルに向ける。

「あれからずっと考えてたよ。アンタの事とか、他にも沢山。」
ネルは真っ直ぐアルベルを見て、ゆっくりと続けた。
「楽しく過ごせるんじゃないかって、思った。 」
・・・・・・ちょっとだけね。
と最後に茶化すように付け加えた。
「・・・・・・。」
「今すぐに、ってわけには行かないだろうケドね。」

アルベルは、元の椅子に戻り座った。
「別に構わない。急いる訳じゃない。」
「そう。ならいいんじゃない?」

「・・・・ 傷、まだ痛むのか?」
「ちっとも。
元々大した事ないのに、周りが大げさなんだよ。お陰ですっかり休養できたけど。でも何故?」
アルベルはネルの問いに答える代わりに、軽く唇を重ねた。
「あのさ・・・・。」
ネルは視線を逸らして少し俯き、そして照れながら、
「扉の鍵、掛けた方がいいよ。いきなりノック無しで入ってくるのが、時々いるから。」
「あぁ? 」



大した事ないと口では言っても、傷跡は多少痛むわけで。

その日。
ネルはアルベルの体重が傷口にかかる度に顔をしかめ、そしてアルベルは何度も「悪ィ」と謝ったのだった。



 




ハッピーエンド狙ってみました。
シンプルライフです。(意味不明)
ネル「ま・いいや」とか、口癖になってます。
ヤバいな。私の性格とか口癖が出てきてるー!!!
ていうか、クレアのイメージって、こんなでいいですか? 相当な策略家ですよ?

そして、タイトルには何の意味もないです。「ノリ」でつけましたから。そりゃもう!