チカちゃんの恋の罠にアルベル堕ちる
ご注意)なんだか悪ノリしてます。アルベル、弱虫です。

1.
ジリリリリリリリリリーッ!!!!!!!
朝の静けさを突き破り、突然部屋中にそのベルは鳴り響いた。
「あ! 起きなくちゃ!」
寝癖で恐ろしいくらいに跳ね上がり、頭を膨張させている赤い髪を掻き上げながら、
シーハーツの誇るクリムゾンブレイドの片方ネル・ゼルファーは
思い切り羽毛のフトンを跳ね除け起き上がった。
そして素早い身のこなしで飛び上がると、一回転して音の発生源・・・目覚まし時計のスイッチを止め、
ベッドの上に見事着地した。
ネルが飛び跳ねたせいで、安い貧相なスプリングのイカれたベッドは大きく揺れ、
隣で寝てた変な頭の色をした男アルベル・ノックス(24歳)がベッドから振り落とされる。
「痛ッ!!!! 」
こちらもまた寝癖がヒドイ上に、左頬にシーツの寝跡まで刻まれている。
まだ寝ぼけているのか、瞼も半分くらいしか開いておらず、適当に着た黄色ストライプのパジャマは
裏表が逆の上に、ボタンも3個ズレで掛け違ってた。
アールグリフ誇る3軍の団長を務めている言っても、誰にも信じて貰えそうにない情けない姿だった。
「・・・・オイ、まだ5時半だぞ?」
「目覚ましテレビが始まっちゃうじゃないか! 馬鹿! そこ邪魔だよ、さっさとどきな!」
「めざ・・・・ ?」
ベッドの脇で、落ちた時の体制のまま寝ぼけているアルベルをネルは思いっきり蹴飛ばして退け、
寝室と一続きになっているリビングへ向かった。
そして、そこにある19インチのTVの手前1mくらいのところにしゃがみ、リモコンを画面に向け
TVのスイッチを入れた。
それから2時間半もの間、ネルは微動だにしなかった。
残されたアルベルの頭には、大きなタンコブが一つ出来ていた。
「チカちゃんの「傘はどっちチカ?」(天気予報)見るんだよ。
全く便利な世の中だねー。雨の降る確率を他人が教えてくれるんだからさ。」
チカちゃん、とは、番組内でお天気コーナーを担当しているアナウンサーの事だ。
「・・・・別に雨でもいいだろーが?」
「良くないよ! そんな便利なものがあるのに、利用しない手はないだろ!ホント馬鹿だね。」
「・・・・・・(馬鹿って・・・・)。だいたい雨でもテメェは傘もささねぇじゃねぇか。
カサはどっチカ・・・って、どっちだっていいだろうーが!!」
「そうゆう問題じゃないよ。知ってて差さないのと、知らないでズブ濡れになるのとでは 全然違うんだから!」
寝癖で髪の毛が跳ね上がり、いつもの3倍くらい大きな頭をして、朝っぱらからウキウキと
テレビの前に釘付けになってるネルを
「阿呆・・・・」と心の中で呟きながらアルベルは、ベッドによじ登った。
口に出して言おうものなら、確実に殺される・・・・。
そして寝起きのネルのすごい形相を見てしまった恐怖にブルブル震えながら、 毛布を頭までかぶり2度寝に入った。
「おはようゴザイマス。昨夜は良く眠れましたか?」
青い髪をサラサラとなびかせて、フェイトがやって来た。
さすが、フェイトの暮らしていた世界なだけあって、彼の姿は街の風景と良く マッチしている。
反対に安ーいホテルから出てきたエリクールの2人は、周りから見ても、何処となく・・・・
いやはっきりと浮いていた。つーか明らかに変だった。
「冗談じゃないよ。こんなボロホテルに泊まったの、初めてだよ。」
「すみません、サイフ管理してるソフィアとはぐれちゃって・・・・。
昨日一晩中探したんだけど、見つからなかった・・・。まったくアイツ、何処いっちゃったんだろ?」
「一晩中探してたのかい? 悪かったね、アタシ達だけ先に休んじゃって。」
「気にしないで下さい。クリフ達も裏切ってさっさと飲みにいっちゃったし・・・。」
そもそもオーナーとかいう「引き篭もり」に会って話を付ける為にはセフィラが必要だというので、
再度エリクールに向かう予定のディプロだったのだが、
途中、燃料切れで、たまたま近くにあった惑星に立ち寄る事になった。
燃料補給に時間がかかると聞かされ、こんな時(エクスキュージョナーが攻めて来てる)だが、
せっかくなので気分転換がてら街でも見て回ろう、とマリアが言い出した。
「時間の無駄だわ」を口癖にしてるマリアが言い出したので、意外だったが、逆らうことなく皆従った。
逆らいでもしたら、頭に銃痕が残るという事を皆、口に出さずとも知っていたのだ。
そして適当に街へ出たまま、6人は、はぐれてしまったのだった。
メンバーのサイフを握るソフィアが見つからなくて、昨夜はそれぞれ手持ちの金で何とか 過ごす事になった。
それぞれの所持金は
「いざという時の為に、少しは持っていてください。」
と前にソフィアが皆に手渡したおこずかい。一人当たり30フォル。
意外にケチなソフィアだった。
どうゆう訳かその時二人一緒にいたアルベルとネルは、
二人合わせて60フォルで泊まれる超安いホテル(一泊食事ナシ)をフェイトに見つけてもらい、
そこを利用したのだった。
入り口のトコロの看板を見てネルは一言、「ねぇ、休憩と宿泊の違いって何?」と呟いた。
部屋に入るとネルは自分のマフラーを取り、床の上に長く伸ばして、
「アンタはそっち。ここからはアタシの領域だから、少しでも入ったら殺すよ。」
そう言った。
ベッドとトイレ・バスと小さな冷蔵庫は「ネルエリア」にあった。
「アルベルエリア」にはスリッパ置き場と備え付けのティッシュペーパーの箱があった。
「めざましTV」はフェイトの世界では、全宇宙ネットで放送されているディプロ内でも受信可能な
朝の人気番組で、それをフェイトに教えてもらって以来、ネルは欠かさず見ていた。
お気に入りはカウントダウン占い。
今日一日の運勢の良い星座順にランキングしている占いのコーナーだ。
ネルの星座が最上位だと、その日の夕食には1品おかずが増えてクリフが大喜びをしたが、
逆に最下位だと、一日数回、血の雨が降るのだった。(チカちゃんもびっくり)
23歳のクリムゾンブレイドは、意外にも占いを気にする乙女だった・・・。
ちなみに本日のランキングでは、ネルの星座は 6位。
良くも無く悪くも無く、ちっとも嬉しくない微妙な順位である。
「そういえば・・・。・・・・チカちゃんに気を取られてて、あまりはっきり覚えてないんだけど、
アンタさぁ、今朝、アタシのベッドにいなかった?」
フェイトの後ろをノロノロと付いていきながら、ネルが思い出したように言った。
「あぁ? 気のせいだろ。」
ホテルのシングル部屋のベッドを「アタシのベッド」と表現するのは正しいのだろうか? と、
どうでもいい事を考えながら、アルベルは適当に受け流す。
「え? ネルさん、そういえば、こんなヤツと一晩も一緒で大丈夫だったんですか!?」
フェイトがわざとらしく大ゲサに叫ぶ。そしてニヤリと笑って
「ま・アルベルが無傷で生きているって事は、何も無かったって事ですよね。良かった!」
頭に出来た大きなタンコブを触りながら、黙り込むアルベル。
「でも、やっぱり誰か、いた。・・・確かに、そこには、誰かが、いた。」
まるで推理小説の主人公にでもなったかの様に、もったいぶった言い方で、ネルが呟く。
「だってシングルとはいえ、一人だったら十分な広さのベッドのはずなのに、なんだか 狭くて寝苦しかったし・・・・。」
考えれば考えるほど、生暖かい人肌の感触が蘇ってきて、ネルは気持ち悪くなって、 ブルっと身震いをした。
「まさか、アンタ・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
殺される・・・・・。
ネルの青ざめた肌の色と、恐ろしい程の上目遣いの刺すような視線にアルベルは後ずさりしながら、
とっさに思いついた言い訳をデカイ声で叫んだ。
「阿呆。昨夜は 大寒波 が押し寄せたんだ。」
「何言ってるの! チカちゃんはそんな事一言も言ってなかったじゃないか!」
「何訳わかんねぇ事言ってやがんだ! テメェは!
何がチカちゃんだ!? あんな箱(TV)の中にいるクソ虫!!!
テメェは会った事もねぇチカちゃんの言葉を信じて、目の前にいるオレを信じねぇのかよ!? このクソ女!! 」
「あぁ。その通り!」
逆ギレしてわめいたものの、あっさり頷くネルに軽くショックを受けて黙り込むアルベル。
「だいたい寒波だからって、人のベッドに潜り込む理由にならないんだよ!
真冬のアーリグリフをそのキモい腹出しルックでウロウロしてるアンタがさ! この馬鹿!!」
「オレだって寒けりゃ凍えて死ぬんだよ! だいたい何だ? あの不条理すぎる部屋割は!!」
オレだって半分の30フォル出したのに・・・・!!! だったらベッドだって半分はオレのモンだ・・・。
続けて主張しようとしたが、ネルはアルベルにそんな間を与えず、
「そんなのアタシの知った事じゃないよ。凍死したってハラ出してるアンタが悪いんだよ!
ていうか、認めるんだね? 人様のベッドに潜り込んだ事!!!?」
ネルはそう怒鳴り、アルベルのむき出しのハラ目掛けて膝蹴りを数発入れた。
最後の1発が、腹のわずか上の肋骨に当たって、より痛い。
「・・・・・・・ッ!!!!」
そんな二人の格闘を、ノホホンとした表情で見守りながらフェイトは
「ここは季節の変化のあまりない、年中夏の惑星だよ。」
さらりと口を挟む。
更にアルベルと目が合うと、ニヤ〜っと笑った。
コイツ・・・・。
フェイトに殴りかかりたい気分だったか、ネルの膝蹴りを直で受けたハラの痛みが酷くで
中腰のような体制で、ただひたすらニヤニヤするフェイトを睨みつけるしかできないアルベルだった。
朝の軽い運動(?)をして気が済んだのか、サッパリした顔でネルは言った。
「さて、クリフ達の居所はわかってるんだろ? さっさと合流しようか。」
「きっと昨日の酒場にいると思う・・・・。こっちです。」
アルベルを置いてさっさと歩き出す二人。
「なんて女だ・・・・。何も覚えてねぇのかよ・・・・。テメェで・・・・、テメェで誘ってきやがったくせに・・・・・・ッ。」
昨夜。
一度はベッドに入ったネルだったが、暫くして起き出して
床でゴロゴロしているアルベルに小さな瓶を差し出しながら言った。
――― 寒くないかい?
冷蔵庫にこんなのがあったよ。
――― ウォッカか?
――― せっかくだから、アタシも少し頂こうかな。
その様子が何時もとまるで違って優しげで、不信に 意外に思いながらアルベルは、
――― まぁコイツと飲み交わすのも悪くねぇ。
と思った。
しかし、アルベルが一口も飲む前に、ネルはそのウォッカを一気に飲み下し、
そして
変になった。
――― そこじゃ寒いだろうに。コッチくれば?
ベッドの中から手招きをしたのだった。
普段では考えられないネルの行動に呆気に取られて、恐怖さえ感じたが、
アルベルも男(24歳)だった。
酒のせいなのか、少し赤く染まった頬とか潤んだ優しげな瞳とか、こちらに差し伸べている白く細い腕とか
そんなものに引き込まれて、覚悟を決めた。
誘ってきた女を無視するのは、相手に失礼だ、など都合のいい解釈をしながら
その一つしかないベッドに潜り込んだのだった。
そう、誘った(?)のはテメェの方だ!
しかも誘っておいて、気が付けばグースカ寝てやがった。
寝てしまった女を無理矢理相手にする程、アルベルも腐っていなかった。
というか阿呆らしくなって、そのまま眠ってしまったのだ。
結局、何事も無かった上に、頭のタンコブと膝蹴りはしっかり貰ってしまった。
あんな酒の一口程度で人格が変わる。理性も無くなる。記憶もなくなる ・・・・・・・・。
頭の中で昨夜のネルを思い返し、あの女は「酒乱」だと勝手に決めつけた。
そして、アルベルはキリキリ痛むハラを抑えながら立ち上がり、フェイトとネルの後を追いかけた。
2.
「すみませんでした!」
ネコのキャラクターが描かれた袋をいくつも抱えながら、ソフィアが走ってきた。
「ソフィア、一体何処をほっつき歩いてたんだよー! お陰で皆がどれだけ迷惑したか!
ネルさんなんか、あのアルベルと夜を供に過ごさなくちゃで悲惨だったんだ!!」
集合場所に先に来ていたマリアとクリフがフェイトの言葉に目を丸くする。
「え? そうなの?」
「そうなのか? ネル? そんなヤツよりオレを誘ってくれれば・・・・。」
そう言うクリフの頭には、銃痕がいくつか残っていた。
昨夜、30フォルしか持たずに酒場に繰り出して大暴れをし、マリアの手によって捕獲されたそうだ。
更にマリアはリーダーの威厳を発揮して、店の人間と穏やかな話し合いで飲み代を30フォルに負けさせた。
その間、銃口がずっと店員に向けられていたのは言うまでもない。
クォークは犯罪者集団だ、とフェイトは思ったが、黙っていた。
「ネルさん、すみません、私のせいで間違いが起こってしまって・・・・。」
ホンキで泣き出しそうなソフィア。
ネルは、そんなソフィアには目もくれず、無表情のままフェイトに向かって言った。
「あのさ・・・。誤解を招くような言い方はよしてくれる? フェイト。」
「へ・・・・へへ。でも事実だしさ。」
ヘラヘラしているフェイトとは対照的に、何故か押し黙っているアルベル。
むき出しの腹に青黒いアザが浮かび上がっている。ネルの膝のサイズとほぼ一致するだろう。
「あのね・・・。」 大きく息を付くネル。
「で?一体何してたの? ソフィア?」
マリアの尋問が始まった。
皆、静かに見守っている。
「近くのデパートでトログッズのセールやってるっていうから、つい夢中に・・・、すみません・・・。」
「私たちが30フォルしか使えない状況に、アナタは一人デパートでお買い物・・・ってわけね。」
「す・すみませんー! マリアさんの分もあります! マグカップですけど!」
「ネコになんか興味ないわよ!」
「いえ、それはカエルの・・・。」
「まぁまぁ。・・・・それで嬢ちゃん、昨夜は何処かのホテルにでも泊まったのかい?」
「え? ディプロに戻って休みました。」
あっさり答えるソフィア。
「なのに、皆さん、朝になっても戻ってこなくって・・・・。」
そうか、その手もあった・・・・。
アルベルとネルは、同時に同じ事を思った。
60フォルのボロ部屋にわざわざ泊まらなくても・・・。
しかも、こ ん な ヤ ツ と・・・。
「フェイト、一晩中私を探してくれてたんだね。ゴメンね・・・・。」
私の為に・・・・的、好きなシチュエーションにうっとりするソフィア。
「い・いや、別に気にするなよな…。」
目の奥のキラキラがいつもの倍になってるソフィアに、ちょっと引き気味のフェイト。
探すと言いながら実は朝の5時まで営業しているゲーセンでたまたま知り合ったゲーマー相手に
熱いバトルを繰り広げていたなどとは、決して誰にも言うまいと心に決めたフェイトだった。
「ありがとう・・・。フェイト・・・・。」
「だから、いいって・・・。」
そんな二人の様子をこれ以上見てても仕方ないと思ったマリアが、
他の皆の方を向き直り
「まぁいいわ。皆いろんな意味で息抜きできたでしょうし。出発しましょ!」
リーダーぽく言った。
最近のマリアはリーダーというよりドンだと、誰もが思っていたが、それを口にはしなかった。
そしてディプロはこの惑星を後にした。
エリクールに到着までの部屋割りは何故かマリアが決めた。
どうゆうわけか、アルベルはネルと同じ部屋に入れられた。
「部屋が足りないのよね、このボロ船。」
と言いながらマリアは自分ではしっかり個人部屋を確保していた。
更に、「フェイトと一緒でも・・・。」というソフィアの意見はあっさり無視された。
「別にいいでしょ。昨日だって二人一緒だったっていうし。」
アルベルは文句を言おうとしたが、頭に銃痕の残るクリフの無言の制止に従った。
マリアの決めた部屋割りに抵抗する勇気を失ったアルベルは、黙ってネルに付いていった。
ネルは部屋に入ると、昨夜と同じように、マフラーを長く伸ばして床に置いた。
分断されたエリアの細かい説明は省略されて、ただ一言
「死にたかったらどうぞ。」
とだけ言った。
そしてアルベルを見向きもしないで、ベッドに潜り込み、頭まで毛布を被った。
中で何かブツブツ言っていたが、アルベルもそんな気味の悪いネルを無視する事にした。
どうせアイツは 酒乱だ。
アルベルは思った。
そしてまた思い返してみた。
あの昨夜の、ベッドから手招きをしたネルは確かに「変」だったが、少なくとも普段より可愛らしかった。
いや、それが逆に恐怖でもあったが。
美人好きクリフのお墨付きのネルなので、それなりに振舞えば、美しくもあるのだろうけど、
アルベルのネルに対するイメージは、手を腰にやり、肩幅に足を開いて仁王立ちしている鬼の様な
イメージしかなかった。
あの女でもあんな表情をしたりするんだな。
いつも、そうしてりゃ、少しは可愛気もあるってのに・・・・。
他の連中(この場合フェイトとクリフ)は、あんなネルを知らないだろう。
なんだか自分だけが知っている二人の秘密が出来たようで、ちょっぴり嬉しくなった。
昨夜の事をネルはこれっぽちも覚えていないのだから、二人の秘密も何もあったもんじゃないのだが
アルベルはその事はすっかり忘れて、ニヤニヤしながら、優しげに自分に微笑みかけるネルを 思い浮かべつつ、
唯一「自分エリア」にあったシングルソファの上に膝を抱え丸くなって眠りに 落ちていった。
(普段自分に対して、キツい冷たい態度の人間が、ある時一瞬でも優しい態度をすると、
それは普段から優しい人間がするよりも、数倍良く見えるものだ。)
恋の魔法(罠)に、堕ちかけたアルベルを乗せ、ディプロは彼の故郷へ向かっていた。
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