チカちゃん、白黒テレビで登場

ご注意)アルベル好きな人は見ないで下さいな。





3.


燃料切れで余計な寄り道をしてしまった我らが宇宙船ディプロだったが
ようやく目的のエリクール2号星まで戻ってきた。

転送でイリスの野に降り立つと、すぐ目の前のシランド城に向かった。
女王に謁見し、シーハーツの大事な至宝「セフィラ」をお借りする許可を得る為だ。
いつも女王の横に突っ立ているラッセル執政官は相変わらずブツブツ文句を言ったが
女王はすんなり快くセフィラを貸してくれた。
つくづく人がいいもんだ、とクリフは思った。
とはいえ、そのセフィラそのものは、自分らで勝手に取りに行って来い、というわけだが。


謁見の間を出るとマリアが皆に向かって命令した。

「皆、ちょっと集まって。」
皆、目の前にいたのだが、マリアの言う「集まる」とは「自分を中心に集まれ」と言う意味だ。
なんとなく皆の視線は未だ消えないクリフの頭の銃痕を向いた。
そして皆は黙ってマリアに従った。
シランド城の2階の大理石の廊下に、「カゴメカゴメ」状態でマリアを中心に集まる御一行。


「じゃ、役割分担をするわよ。時間の無駄を出来る限りなくしたいから。えっと、まず・・・・。」
マリアは皆を見渡して、
「そうね、ソフィアとクリフとネルはセフィラを取りに行ってきて頂戴。
残った人達は買出し。わかったわね。じゃ解散。」

「ちょっと待って下さい。」
勇敢にも最初に反論したのはソフィアだった。
「その役割決めの根拠はなんですか?」
「え? だって、アナタがいないとブレアとは連絡取れないでしょ?
   それにカナンへの道はネルが詳しいし。あとクリフは・・・・・。とりあえず、よ。」
・・・・オレを選んだ理由はねぇのかよ。
クリフは寂しくなり、ちょっと落ち込んだ。
「そうゆうわけだから、宜しく。」
マリアはそう言うと、フェイトの腕を掴んで「買い物買い物〜かえるの買い物〜。」と変な鼻歌を歌いながら階段の方へ 向かい始めた。先日ソフィアがくれたカエルグッズが妙に気に入ったらしい。

「待ちな。」
次にマリアに歯向かったのはネルだった。
「悪いけど、カナンへは行けないよ。」
「あら、どうして?」
「セフィラを取って来たら、ブレアから連絡があって、いつ行動を起こすかわからないんだろ?
 その前にちょっと用事があるんだ。
 それにカナンへは、クリフも行った事あるんだから、今更アタシがいなくても迷ったりしないよね?
 アンタ達、適当にちょっと行って取って来たらいいよ。」
「・・・・・それもそうね。」
ネルの言い分にマリアも素直に納得している。

・・・・案外、セフィラを重要視しているのは、ラッセルのおっさんだけなのかもしれない。
そう思うクリフだった。
その横でさっきから黙っちゃいるが、ネルの「用事」が何なのか気になっているアルベルが マリアと目が合った。
「じゃ・・・・、代わりに・・・・・。」
「オレも用事がある。」
きっぱり言った。

「あらそう。」
アッサリと引き下がるマリア。
「そうね、カナンに断罪者がいないとは限らないし。だったらキミより、フェイトに行って貰った方が・・・。」
「待て! それはどーゆー意味だ?」
「でもフェイトは買出しに行かなきゃだから・・・。仕方ないわね、クリフ、ソフィアをお願いね。」
マリア決定が下された。
自分が行くという選択肢はまるで無いらしい。

とりあえず6人はそこで解散した。
礼拝堂からカナンへ続く階段は以前利用した時以来ずっと開いたままで、今ではちょっとした観光スポットになっていた。 礼拝に訪れた人々が信仰半分興味半分でカナンまでの道に挑戦しようというのである。

実際には99%が封印洞の入り口で引き返してくる。先へ進んだ残りの1%の行方は不明と伝えられていた。

クリフはソフィアと二人でその階段を下りて行った。
半分降りたところでクリフはアルベルに
「オマエも来いよ。そうすりゃヒートゲージもより溜まり易くなって、嬢ちゃんのレベル上げにもなるから。」
と言ったが、あっさり蹴られ階段を転がった。
しかしその言葉の意味に少し傷ついたアルベルだった。

クリフ達の姿が見えなくなるとアルベルは、辺りを見回したが、既にネル(とマリア達)の姿はなかった。

先日先々日の一件以来、アルベルはどうにもネルが気になって仕方なくなっていた。
あの女、酒乱と見せかけて、実はオレに変な施術でも仕掛けたんじゃねぇだろうな・・・・・。
そんな訳の分からない原因を考えてみたりするが、結局のところ、その理由も分からないまま、
しかし何故か視線はネルを追いかけてしまうのだ。

自分の内に沸き起こった、この不思議な現象(感情)に戸惑いながらも、アルベルは礼拝堂を後にした。




4.


その日の夕食後、アルベルはイライラしながらシランド城1階の廊下を行ったり来たりしていた。
「あのクソ虫が! クソ虫が! クソ虫が! クソ虫が・・・・ッ!!」




シランドでは食事はいつも大広間に用意してくれるので、自炊する必要がなく楽チンだ。
なにしろ一応は「戦争を終わらせた英雄サマ達」なので、もてなさないわけにはいかないからだ。
しかし、こう何度も来られると・・・・、というような不穏な空気が城の厨房に漂い始めていたのだが、 本人たちは気が付かないフリを決めていた。


その不穏な空気の漂う夕食の席で、ネルが突然、
「フェイト。有難う。この恩は一生決して忘れないから。」
どうゆうわけか、うっすら涙まで浮かべてフェイトに言った。

「本当に有難う。」
戦争を終わらせたときよりも、数十倍感謝のこもったお礼を何度も何度も言うのだ。
その様子にアルベルは驚いて半分椅子から落ち掛けたが、なんとか踏ん張り、そしてフェイトを見た。
「いいんだよ、気にしなくて。あんな程度の事、いつでも引き受けるからさ。」
と、フェイトもニコニコしながら、それに応えている。
会話の内容は分からないが、その二人の様子に激しく怒りが沸いて来た。
礼拝堂で別れてから夕食までの時間に、この二人の間で、何 か あ っ た の だ ・・・・。

「でもネルさんに、そんなに喜んで貰えるなんて。」

ピクリと、フォークとナイフを握るマリアの手が止まった。
マリアは最初から機嫌が悪かった。
午後にフェイトと買い物へ行くつもりだったのが、「ゴメン、ちょっと用事があるから。」と フェイトにあっさり断られてしまったからだ。
その用事というのが、ネルに関わる事だと、今の会話で気が付いてしまった。

・・・・ 思ワヌトコロニ 伏兵ノ 出現ダワ ・・・・・ッ!!!

食事をする為の道具が凶器に代ろうとする瞬間、大広間に入ってきたクリフがマリアの腕を掴み、 それを阻止した。
数秒後、クリフの頭の銃痕が、もう1個増えていた。



そんなこんなで、フェイトとネルの会話の意味が気になりつつも、聞くに聞けないアルベルは 夕食が済むと、ネルの部屋から礼拝堂までの廊下を「クソ虫クソ虫」とブツブツ言いながら 行ったり来たりしていたのだ。

「あぁもう! あのクソ虫が! 一体何だってい・・・・ 」



そこに、イライラの原因であるフェイトがやってきた。
手に2本ワインのビンを持っている。

「何してんの? オマエ。落ち着き無いな・・・・。」
「あぁん!!????」

アルベルは、必要以上に大げさな身振りで振り返りフェイトをにらみ付けた。

「嫌だなぁ、そんな睨んで。僕が何をしたってのさ? その顔、辞めたほうがいいよ、怖いから。
ソフィアも怖がってたし。」
「うるせぇ! この際そんな事関係ねぇだろーが!!
 てめぇこそ、あの女に何をした!?」
「・・・・? あの女??? って誰だろう・・・? 僕の周り、女性は結構沢山いるし、どの「あの女」だろう?」

相当にわざとらしい口調でフェイトはアルベルを見返した。

「まぁ、どっちみち、オマエには関係ないことだよ。ネルさんと僕の秘密だよ。」
「・・・・・ッッ!!!????」

アルベルは怒りが沸点に達して、息が詰まりそうになりゼイゼイと大きく呼吸していた。。

「そうそう、これからネルさんと飲むんだ!!」
フェイトは更にわざとらしく、ワインのビンをアルベルの目の前で揺らしながら追い討ちをかけた。
「・・・・・・・ッ! なんで、テ・テメェが・・・・・ッ!」

・・・・あの女と飲むんだ!?


「・・・・あの女は・・・・」

・・・・酒乱なんだぞ・・・ッ ・・・・。
そして、わけわかんなくなって、色目使って誘ったりするんだぞ・・・・・。


そこまで考えて、アルベルは急に背筋が寒くなるのを感じた。
酔って誘うかも、しれない・・・・、コイツを・・・・。そしたら、コイツは・・・・・?

さっきまで顔を真っ赤にして怒り狂ってたのに、今度は真っ青になって、脂汗までかきはじめている。

「おもしろいなぁ。オマエ。」
フェイトはそんなアルベルを横目で見つつネルの部屋に向かった。
アルベルはあわてて

「ま・まま・待て!!! 」
「何だよ?」

「さっき、さっき・・・・。そう!そうだ! クレア・ラーズバードがテメェを探していたぞ!!」
「え? クレアさんが? 何だろう?」
「さっさと行かないと、ヒミツをバラすって言ってたっけな。」


「・・・・え?」

何故「クレア」なのかアルベル本人もわからなかった。思いついた名前がソレだった。
しかし、アルベルの必死の出任せが、フェイトには思い当たる事でもあるのか、 急にまじめな顔になって考え始めた。

「困ったな。どうしようか。クレアさんを優先すべきか・・・。」
「そうだ、そうした方がいい。そうに決まってる!」

アルベルは、素早くフェイトの手からワインを引っ手繰ると、
「コイツは俺が、あの女に渡しておいてやるから。」

「・・・・・親切なお前って、不気味。」
口からの出任せと下心がアリアリなので、アルベルはフェイトの嫌味も気にならない。
それどころか、更に不気味な笑顔をフェイトに向けて
「早く行った方がいいぞ。」
と背中を押した。

そこへクリフがやって来た。
アルベルは、チッ!と舌打ちした。『邪魔が入った・・・。』

「おい、フェイト、お前何考えてんだよ。あれほど未開惑星なんたら条約を気にしてたお前が、テレビなんかこの星に持ち込むなんてよ。」
「あ・だってネルさんがさ、どうしてもって言うから・・・。大丈夫、あれは前世紀時代のチャンネルを回すタイプの白黒テレビだから。毒電波は受信できないよ。そんなポンコツを僕が直してあげたのさ!!」
「何、得意げに言ってんだよ。そうゆう問題じゃないだろうが。」


(テレビだと!?)

アルベルは 何か思い当たる事があった、・・・・ような気がした。

(テレビって・・・・なんだっけ?)

「ネルさん、どうしても朝の番組見たいっていうんだ。チカちゃんに会いたいんだって。  僕はどっちかというと、美奈子がいいなぁ。『元気のミナ・もと!』・・・ってね。」
振付で力説しているフェイト。
その横で首をかしげているアルベル。

(チカちゃんって、何だっけ?  どっかで聞いたような・・・・)
アルベルの頭は、戦闘以外の事は3歩歩くと忘れてしまう、ニワトリ並みの脳みそのようだった。

「とにかく、フェイト、早く行け! クレアが怒るとアーリグリフに雪崩が起こるって、昔から言われてるんだ。  ばぁちゃんが言ってた、間違いない。
 早く行ったほうがいいぞ。待たせると悪いだろうが! 早く行け! しっしっ!」

フェイトは嫌そうな顔をしていたが、クレアの笑顔でも思い出したのか、急にご機嫌になって城を出て行った。

残ったクリフをアルベルは見た。クリフもアルベルを見た。
「何だよ?」
「・・・別に。」
「・・・・? 気味の悪ィヤツだな。」
クリフは怪訝そうな顔をしてアルベルを見下ろしている。

「うるせぇ! テメェもあっち行け! 」
「なんでオマエに命令されなきゃいけねぇんだ?」
「何だと!?」


「――― アルベル。」

そこにマリアが割って入ってきた。
『また邪魔者が・・・』
アルベルはマリアを睨みつける。
マリアは、実はずっと柱の影から様子を伺っていたのだ。
先ほどのフェイトとアルベルの会話で、フェイトがネルに何をしてあげたのか理解してホッとしたが、 まだまだ安心は出来ない、先に手を打とうと策略を巡らせていた。

(ソフィアだけでも、手ごわいってのに。
 幼馴染・・・・・ 年増 年上の女・・・。手強いわ・・・。だけど、コレを上手く使えばネルの方は
 なんとか撃退できそうね。 )

マリアの心の内で「コレ」と呼ばれている事など知りもしないアルベルは、マリアとクリフを追い払う方法を 考えていた。先に口を開いたのはやはりマリアだった。
「ねぇアルベル。この間、ネルと一晩過ごした時に何かあったんじゃないの? あれから何か変よ、キミ。」

(変なのは、前からだよ。)
クリフは思ったが口には出さなかった。

アルベルは息を呑んで黙りこんだ。心臓はバクバクし始めていた。
何故マリアがそんな事言い出したのかわからない。
・・・俺、そんなに変だったか? 冷静な風を装ってたつもりが、マリアには見破られていたってのか!?


「私たちで良ければ話してくれない? 私たちも子供じゃないし、そんな野暮なマネはしないわ。 キミの力になりたいのよ。」

(そんな事言い出す辺りが、十分、野暮なマネしてるっつーの!)
クリフは思ったが、やはり黙っていた。


「好きになっちゃったんでしょ、ネルのことが。」

いきなり核心をつくような事を平気で口にするマリア。
アルベルは一瞬呆けたような顔になったが、次の瞬間、両手に握り締めたワインのビンを 振り回し、バタバタしながら、
「な・なな・何を言い出すかと思えば。あ・あ・・・ぷははっははは・・・・はは・・・・。」
と奇妙な笑い声を立てた。
そんなアルベルにお構いナシにマリアは続ける。

「・・・でもね、思っているだけじゃダメな時だってあるのよ。ちゃんと言葉にしなきゃ伝わらないんだから。」
「・・・・・・・・・・・。」

(あららっらら。おもしれぇな、コイツ、マジだよ。)
黙り込むアルベルを横目で見ながらクリフは思った。

「そうだぜアルベル。特にネルみたいな女は、なんつーか・・・あーやって気張って生きている分、 本心では誰かに寄りかかりたいって思ってるもんなんだ。思い切り男らしく告白すれば、きっと落ちる!
むしろ、男らしいオマエに頼りたくなるに決まっている。」
「・・・・・・・・・・・。」
クリフの言葉に更に考え込むアルベル。

(オイオイオイ、本気だよ、コイツ。どーするよ?)
クリフは面白く思いながら、この星で出会ったネルとアルベルが、自分達の橋渡しで結ばれたとあれば、 それはそれで楽しい素敵な事だと思った。ついつい想像を膨らませて、二人の結婚時には仲人をしている自分の姿を思い浮かべ、 何を着ていこうが、スピーチでは何を話そうか、とそんな事まで考えだしていた。

マリアも、『ネルとアルベルが上手く纏まれば、心配事が一つ減るわ』と思い、
「ねぇ、私たちにキミ達の事を見守らせて! 力になりたいの。
こんな戦いに巻き込んでしまって悪かったと思ってるのよ。
だから二人には幸せになてってもらいたいのよ。むしろキミの幸せが私の幸せ。」
などと、調子に乗って心にも無い事を平気な顔して言い、アルベルを煽るのだった。

アルベルは手に持つワインのラベルを眺めならが、自分を思ってくれている二人の気持ちをかみ締めていた。
こんないいヤツラだったんだな・・・・。いままで俺は勘違いをしていた・・・・。俺は馬鹿だ・・・・。

「わかった。お前らの気持ちは在りがたく受け取っておく。が、とにかく、これは俺の問題だからな。
 これ以上、口を挟まないでくれ。」

アルベルは今までに無いくらい爽やかな(不気味な)穏やかな笑顔でクリフとマリアにそう告げると ネルの部屋に向かうのだった。

クリフとマリアはアルベルの背中を見つめながら、
「どう思う? 上手くいくかしら?」
「さぁな。どうかな。ヘタれっぽいからな。イザッて時にダメなタイプだろ。」
「・・・・まるで戦地に行くみたいな勢いで歩いていくわね。」
「戦闘の方が楽なんじゃネェか? アイツにとっては。」
「おもしろいから、暫くここで見てましょ。」


「・・・・何が面白いって?」
背後で突然声がして、ギョッとしてクリフとマリアが振り向くと、そこには仁王立ちしているネルが二人を睨みつけていた。

「二人そろって、廊下で何コソコソ話してるんだい? 何かの悪巧み???」
ネルはマリアとクリフを交互に見ながら詰め寄った。
「いや、そんなんじゃないんだがよ・・・・。」
「いやぁね、ネルったら・・・。部屋にいたんじゃなかったの?」
後ずさりをしながら答える二人。

「クレアのトコに行ってたんだよ。フェイトに面白い物を貰ったから見に来ないかって誘ってたんだ。」
「あぁ、テレビ、ね。」
「でも断られたけど。
 そりゃそうだよね。断罪者がウヨウヨいる所で落ち着いてテレビなんか見れないよね。
 ・・そういえば途中でフェイトとすれ違ったけど、フェイトもクレアに用だったのかい?」

「さ・さぁ、私たちには良く分からないわ・・・。それより・・・。」
マリアが視線を泳がす。その先にはネルの部屋のドアを開けて、まさに今、入ろうとするアルベルがいた。

「!? アイツ! 何でアタシの部屋に!? ちょ・・・・ちょっとぉ!!!!???」


ネルはクリフとマリアの間を素早く通り抜けて、アルベルの背後に迫り、
少し手前で大きくジャンプし、空中で腰の剣を抜き放つと、アルベルの後頭部目掛けて、
大攻撃(遠)を繰り出した。

「あうッ!!!!!!」

アルベルは避けるまもなく、見事に吹っ飛ばされて10Mくらい先で3回転半し、壁にぶつかって止まった。
「な・・・・ッ???????」

今自分に何が起きたのか、理解するのに数分かかった。
手にしたワインをしっかり抱え、割れないように受身を取ったのは、さすが漆黒団長である。

「アンタ!! どうゆうつもりだい!? 人の部屋に勝手に入ろうとして!!!」

アルベルは頭を撫でながら、体を起こした。。
「痛てぇ・・・・。ノックしたが返事がなかったんだよ!!!!」
「返事が無いのは、留守だからに決まってるじゃないか!!! 何考えてるの! この変態!!!!」

ネルは容赦なく、立ち上がろうとするアルベルの首の鎖を掴むと力任せに引っ張り上げて、今度は反対方向に放り飛ばした。
「許さないよ!! この馬鹿!!!」

(乱暴・・・すぎる・・・・。)

クリフはブルッと身震いして眺めていたが、マリアに 「二人を止めてきなさい! 」と命令され、しぶしぶネルに近づいた。
二人が険悪な仲になれば、仲人の夢は破れ、考えたスピーチを言う機会もなくなる。。

「もう勘弁してやれよ、ネル。」
更に殴りかかろうとするネルの腕を掴んで制止すると、次にアルベルの首の鎖を掴んで引っ張り起こした。
「お前も・・・・。ネルに用事があるんだろう。せっかくこんなワインまで用意してよ・・・。」
服に着いた誇りを払ってやり、最期にポンと背中を押した。
「さぁ、勇気を出して告っちまえ!」
「え? あ・・・・。」

ネルは相変わらず上目遣いでこちらを睨みつけている。
「何アンタ? アタシに告白するような事があるのかい? また悪さしたんじゃないだろうね?」

「また」の意味が良く分からないし、「告白」と聞いて、悪さをした・・・とネルに思われている アルベルに少し同情したくなるクリフだった。

アルベルは無言でクリフを方を振り返り、SOSのサインを必死に目で訴えた。
「ま・がんばれ。」
クリフはアルベルの肩に軽く手を置いて、そう言ってやった。
そして、第3者がいたら言いたい事も言えないだろうと思い、その場から離れるのだった。

そんな配慮の全く無いマリアは少し離れたところから、興味心身でコチラを見ていたが、 「明日になれば結果もわかる」とクリフに無理矢理引っ張られていった。
翌日クリフの体の見えない部分に銃痕が増えていた。これ以上頭を狙わなかったのは、マリアなりの配慮である。


二人きりになったアルベルは、もう何を話していいのか分からず「あー」とか「うー」とか呻いていたが 暫くして覚悟を決め、ネルを真っ直ぐ見て口を開いた。
「・・・・・・・。」
「何よ? 口を大きく開けて。何なの? 言いたいことがあるならはっきり言ってくれない?
 アタシも忙しいんだよ。明日は早起きしなきゃならないんだから。」

もちろん「目覚ましテレビ」を見るためだ。


「そうか。・・・・。せっかくワインがあるんだがな・・・・。」
アルベルはやっとの思いでそう言うと、手にしたワインに視線を落とした。
元々はフェイトから奪ったワインである。

ラベルを良く見ると、なんとロマネコンティだった。
あの男・・・、やっぱり何か企んでいやがる、こんな上等なワインを・・・・・。
それともアイツなりにネルの為に奮発したのだろうか?

「なに? アタシと飲もうっての?  ・・・・・・・どうゆう風の吹き回し?」
それからネルはふと思い出したように続けた。
「そういえば、フェイトってば、失礼しちゃうよ。
 夕食済んだら後で一緒に飲もうとか言ってたから、急いで戻ってきたってのにさ、自分はクレアの所に行ってしまうなんて。どうゆうつもりなんだろう?」
「あぁ、その事だが、実はこのワイン、ヤツから預かってきたものなんだ。」
そう言って、アルベルはワインを差し出した。
「へぇ? そうなの?」
「けど、あんなヤツと酒なんか一緒に飲むな。」
渡すとき、そう付け加えた。本心だった。
「何故よ?」
「何故って・・・・・。そりゃオマエ・・・・しゅ・・・・・。」
酒乱と言いかけて、あわてて口を噤んだ。
本人が覚えていないんだから、言っても仕方ない。言ったら言ったで殺されそうだ。
「とにかく、他のヤツと飲んだりするな。飲みたけりゃ、その時は俺が付き合ってやる。」
「・・・・・。」
ネルは黙ったまま怪訝そうに目の前のアルベルをジロジロ見ていた。
この男は、つまり自分以外と飲むなと言っているようだ。それをどうゆう意味で受け取っていいのか分からない。 何故そんな事を言い出したのかも分からなかった。

「何だ?」
「・・・・・別に。」
ネルは何故か顔を赤くして横に逸らす。

「・・・・・ならいい。じゃあ、確かに渡したぞ。」
そう言ってアルベルはネルに背を向けた。
このまま部屋に戻っても、到底眠れそうにない。散歩でもしに行くかと考えていた。

マリアがさっき言った事。多分そうなのかもしれない。アルベルは思った。


『 ――― 好きになっちゃったんでしょ、ネルのことが ――― 。 』

いや好きかどうか、よくわからない。
こんな乱暴な女・・・と思う。しかもいつも偉そうで、おまけに酒乱で・・・。
只あの時見せた優しげな表情は自分だけの秘密にしたかった。

「ねぇ、ちょっと待ってよ。」
「!?」
「あのさ・・・。」
アルベルは足を止める。
「せっかくだし、フェイト戻ってこないし。一緒に飲む?」
ネルはワインの瓶を顔の横に持ち上げた。

「・・・・・・・・。」
「嫌ってなら無理にとは言わないけど。」

ネルが俺を誘ってる。いつかと同じだ・・・・。
「い・いや、・・・・・・・・・・・・ 仕方ねぇな、付き合ってやるか。」
ドキドキしながら、そう言うのが精一杯だった。だが本心では浮かれて今なら空も飛べそうだと思った。

ネルは自分の部屋のドアを大きく開けて、アルベルを招き入れた。
「ねぇところでさ、チカちゃんの事、どう思う? かわいいよね・・・。」
 ( 酔ったときのオマエの方が数倍かわいいな・・・ )



5.


翌日。6:00・・・・。

「たった今、ブレアさんから連絡が入ったんだけど!・・・・あ・あれ?」
ソフィアがあわててフェイトの部屋に飛び込んだが、フェイトの姿はそこには無かった。どうやら昨夜から戻ってないようだった。

その時、隣の部屋でものすごい派手な音がした。
「なに!? ネルさんの部屋?」

ソフィアが廊下に飛び出すのと同時にネルの部屋のドアが激しく開いて、中からアルベルが吹っ飛んできた。
アルベルは反対側の壁にぶつかって、頭から下に落ちた。

「いてェ・・・・・。」
「ど・どうしたんですが!? なんでネルさんの部屋から???」
ソフィアがあわてて駆け寄り、首の鎖を掴んでアルベルの体を半分起こす。

「痛ェな! 何しやがる!!!?」
部屋の中に向かって怒鳴るアルベル。
「うるさいね、あんたのせいで見逃しちゃったじゃないか!!!!!!」
「何が? まだ番組は終わってないんだろうが!」
「違ーーーう!!! アタシが見たかったのは、「アヤPLAZA」ってコーナーのチカちゃんなんだよ!!
 どうして起こしてくれなかったのさ!!?」
「俺のせいかよ!?」
「そう! アンタが全部悪い!!!!! アンタの持ってきた酒のせいで寝過ごしたんだよ!」
「それを言うなら、アレは元々フェイトの酒だ! ヤツが悪い!」
「いい加減にしなよ、そうやって人のせいにして!」
ネルはそう叫ぶとバタンとドアを乱暴に閉めた。

「あ・ネルさん、今ブレアさんから・・・・・。」
自分こそ寝坊した事をアルベルのせいにしているのに・・・・。とソフィアは思った。アルベルが気の毒になった。

(くそう・・・。なんでこうなるんだ?)
アルベルは頭を抑えながら、のそのそ立ち上がった。

そこへマリアとクリフが現れてアルベルを見つけ
「・・・・おい、結局昨日どうだったんだよ? 上手く告白できたのかよ?」
「私たちの助力もあっての事なんだから、きちんと報告しなさいよね。」
「あの・・・さっきブレアさんから・・・・。」
「で、どうだったんだ? キスくらいしたんだろうな?」
「朝まで一緒だったんだから、きっとそれ以上よね?」
「あの、ブレアさんが・・・・。」

興味津々でアルベルに詰め寄るクリフとマリアには、ソフィアの声は届かなかった。
しつこく詰め寄り、しまいにはしがみ付いてくる二人を、アルベルは何とか振り払ってその場から逃げ出した。

そして城の入り口の石段に腰を掛け、大きなため息を付いた。
門兵までもが気の毒そうに漆黒団長を見ていた。

(くそう! なんなんだ!? あの鬼のような乱暴さはよ!??)
(何がチカちゃんだ、ふざけんな!)
昨夜、相変わらずネルはワインを一口飲んだだけでコロリと寝てしまい、残されたアルベルは、 一人寂しく白黒テレビで深夜番組を朝まで見続けていたのだった。
(あまりにもぐっすり眠ってやがったから、もう少し寝かしてやろうと声を掛けるのを遠慮していたら、コレだ。)

軽く頭を振り、そしてもう一度大きくため息を付いた。
ネルの寝顔を見て、いらぬ妄想をしていた事は、内緒だった。

とその時、背後で気配がしたと思ったら、誰かに思い切り蹴られた。
確かめなくてもアルベルには相手が誰だか、蹴りの感触でわかってしまうまでになっていた。

「邪魔だよ!! アンタ! 通り道に座ってんじゃないよ!」
「だ・だからって蹴る事ないだろうが!!」
しかしわめくアルベルを無視して、ネルはキョロキョロしながら叫んだ。
「ファリンとタイネーブは何処!!!?」
目が合った門兵が慌てて首を振る。

「探して! 大変なんだから!!」
「どうした?何か問題でも起こったのか?」
あまりのネルの慌てぶりにアルベルも少し真剣な表情になった。


ネルは振り向き、興奮気味に

「チカちゃんが、ここにくるんだよ!!!!」


「・・・は?」

「明日の目覚ましTVはスペシャル版でエリクールからお届けしマース!って言ってたんだ!!
 あーあーどうしよう! とにかく捕獲しなきゃ! タイベーブ達は何処!? 捕獲準備させなきゃ!!! 封魔師団の名にかけて!!!!」

ネルはそう叫ぶと街のほうへ走っていった。

後からソフィアが飛び出してきて
「ネルさーん、ブレアさんから・・・・連絡が・・・・・」
と呼んだが、聞こえるはずはなかった。
 
ただただ呆然とネルを見送るアルベルだった。










続きは「チカちゃん、エリクールに降り立つ!?」の巻き〜!

もう何がなんだか。