赴任





帝国城のその一室に海戦隊第6部隊の面々が揃っていた。上官の姿はまだ無い。
ブリーフィング等に使われる部屋だ。
彼らは軍人らしく姿勢を正して上官を待つというのではなく、くだらない話を延々続けたり、足をテーブルの上に乗せ居眠りしていたり、カードゲームをしていたりしていた。

暫くして部屋の前方にある扉が開き、副官のギャレオが姿をあらわした。
それまで騒がしかった部屋の空気が一瞬止まる。視線が副官に向けられた。
ギャレオに続いて、肩くらいまでの黒い髪を揺らして背筋を伸ばした女性―――少女と形容しても可笑しくない年代の女性が部屋に入ってきた。少し伏せ目がちで皆の前に立つ。
「静かにしろ。今日から我が隊に赴任された新しい部隊長殿だ。」
ギャレオが言った。そこで彼の隣に立っていた女性が皆を見渡し初めて口を開いた。
「アズリア・レヴィノスだ。」
彼女に対して興味の視線が注がれる。
「ここはおまま事をする所じゃないですよ。」
「いや、おままごとのお相手なら、いつでもオレが引き受けるぜ!」
「レヴィノス家のお嬢さんに部隊長なんて務まるんですかねぇ。」
「一体どんなヘマやらかしてこんな第6部隊に回されちまったんですか?」
様々な冷やかしや嫌味の野次が飛ぶ。しかし、アズリアは表情を変えない。
アズリアの少し後ろに立つ副官のギャレオが一歩前に出た。
「お前ら、言葉を慎め!」
しかし静まる様子はない。
一番前に背を向けて座っていた長身の男が、顔だけコッチに向けてニヤリとしながら言った。
「ここは、アンタみたいなお嬢さんのくるところじゃないですよ。なぁそうだろ? 副官殿。」
「何だと?」
「貴様、名前は?」
表情を変えないままアズリアが問う。「貴様だってよ。」「口の悪いお嬢さんだ」等、ひそひそ声の野次が漏れる。
「ビジュと申します。新任隊長殿。」
わざとらしく丁寧にその男が答えた。頭まで下げた。
アズリアはそこで初めて表情を変えた。口の先を吊り上げて不敵に笑う。
「ビジュか。貴様、今日のところは勘弁してやるが、明日からは態度に気をつける事だな。軍において上官は絶対であり、そして。」
そこで一度言葉を区切り、アズリアは目の前に座るビジュを見下ろして続けた。
「私は貴様の上官だ。」




カツン、カツン・・・・。
廊下に足音が響く。
「すみません、第六部隊はあーいった手に負えん連中の集まりなんです。」
「知っている。」
少し後ろから付いてくるギャレオを振り向きもせずアズリアが答える。
「しかし、ヤツラの気持ちもわかってやってください。」
ギャレオは振り向きもしない年下の少女に不満と怒りを感じながら、それでも落ち着いた声で続けた。

「あんな荒くれのイカれた連中ですが、腕にだけは自信も誇りもあるんです。いままで幾度と無く死線を越えて来たという自負も。
それがアンタみたいな年若の女が、突然上官だと言われても納得できるもんじゃない。
言っちゃなんだが、エリートでも何でも、アンタのような実戦経験の浅いお嬢さんにあの連中を纏める事が出来るとは思えない。」

「なるほど。つまり私のような者を部隊長として認められないというのだな?」
「はい。」
「お前もそう思うか?」
「・・・・えぇ。」
一瞬ためらったが、ハッキリと答えた。ギャレオ自身、今回のアズリアの配属に不満があった。
「わかった。」
そこでアズリアは足を止め、初めてギャレオを振り返った。
顎を少し持ち上げ、真っ直ぐに副官の男を見つめる。刺す様な強い視線だった。
「ならば私が隊長として適任かどうか、お前が判断しろ。失格だというのならば、遠慮はいらん。
後ろから斬るなり、上層部に通告するなり好きにすればいい。」
ギャレオはハッと目を見開いて、目の前の少女をまじまじと見た。
「・・・・いいので?」
「構わん。頼りない隊長なんかには私だって命を預けるのはゴメンだ。」
そう言うとアズリアはまた歩き始めた。
立ち止まったまま、その後姿を見つめる副官を置いたまま足早に廊下の奥へ消えて行った。


ギャレオの不信感が、周りの敵味方全てから彼女を護ろうという決心に変わるまで、そう時間は掛からなかった。




なんつーか、別にギャレオ*アズリアってカップリングを推したい訳じゃないです。
でもこの二人の関係は好きだ・・・。