1 Day





その日ネルは、女王からの使いでアーリグリフを訪れ、ついでに嫁いで行ってからまだ一度も会ってなった親友を訪ねた。
最近、体調を崩して寝込んでいると聞いたからである。
実際見舞ってみると、たいした事はなく、安静にしてろだのと大げさに言っているのは周りばかりで、本人は実に元気そうにしていた。
ネルには何かひらめくものがあったのだが、もしそうであれば近々正式な発表でもあるだろうと、あえて何も聞かなかった。
とにかく陰ではいろいろ言われた結婚でも、本人の幸せそうな顔を見れば安心する。
それから彼女の結婚してからの新生活の話(ノロケにしか聞こえなくてコッチが恥ずかしいっての!)を散々聞かされ、 話のネタも尽きたところで彼女が「ところでネルの方は最近・・・。」と言いかけたのを無視して、逃げるように城を辞してきた。



「結婚。ねぇ・・・・。」

なだらかな山道を下りながら、ロザリアの話を思い出していた。
なかなか悪くないかもしれない。(いや別に最初から悪いなんて思ってないが。)
かといって、こればかりは一人でなんとかなるものではない。
そして今まで仕事一筋できたネルにとっては、なんだか他人事のようにも感じるのだった。



その帰り。
カルサアに付いたのは、もう陽が傾き始めた夕刻。


街の素通りするつもりで、メイン通りを足早に歩いていたネルは背後から、突然誰かにぶつかられた。
それは小さな男の子で。
「あ!」
ネルの脇を通り抜ける瞬間、振り向き様にニヤりと笑うのをネルは見逃さなかった。
その手には、いつもネルの腰にあるダガーの短い方。
「ちょっと!」
今、自分は、そんなにボーっとしてただろうか?
すぐに追いかけるべきなのに、そんな事よりも、この自分が引ったくりに遭った、というショックの方が先で 一瞬呆然としてしまった。
我に返って追いかけようと2・3歩踏み出したところに、偶然なのか何なのか、ウォルターの屋敷から出てきたアルベルが、 その状況に気が付き、走り抜けようとする少年に足を引っ掛けた。
少年の体は、見事なまでに宙に浮き、派手に転ぶ。
「・・・あ。」

「痛ってェー!! 何しやがんだ!!」
「何だと!? テメェこそ何しやがる!? 縛り上げてあの上から吊るすぞ!」
アルベルが子供のアタマを掴みあげ、今自分が出てきた屋敷の塔の辺りを指差すと、
少年はぎょっとして、「ごめんなさい」を繰り返しながら泣き出す始末。
「ふん!」
アルベルは少年を放り捨てると、落ちていたダガーを拾い上げた。
少年は2・3回転して止まり、むっくりを立ち上がると
今の今まで泣きじゃくっていたはずが、
「ふざけんな、バーカ!! 覚えてろ!!」
と叫んで路地の方へ走って行ったのだ。
「何だと!? 待ちやがれ、このクソガキ!!!」

その様子をポカンと眺めていたネルだが、拾ったダガーを手にこちらへ歩いてくるアルベルと目が合い、我に返った。

「何してんだ? 阿呆か? テメェは?」
「え? 何って・・・アンタこそ、何して・・・?」
最後の「阿呆」は、いつもの口癖ではなく、本気で自分に言ってるのが良くわかる。

「何ボーっとしてんだって、言ってるんだ! あんなガキに背後を取られやがって!」
背後を取られるだなんて、言い方がちょっと大げさすぎやしないだろうか?
そう思ったが、事実なので言い返す言葉も無く、顔を背けた。
確かに、周りに気が行ってなった。
「ホラ!」
アルベルに差し出されたダガーを受け取り、鞘に戻すわけでもなく、なんとなくその剣先を眺めながら、
小さく
「ありがと。」
とだけ言う。
自分の失態を、よりによってこの男に・・・・。という思いがあって、イラついていたが、
どう考えても自分の不注意だし、この相手に言い訳などする気も無く黙っていると、
「オマエ、今ヒマか?」
「・・・・? は?」
どうせ嫌味でも言われるのだろうと思っていただけに、アルベルの言葉に耳を疑った。
「・・・・暇と言えば暇だし、暇じゃないと言えば暇じゃない。」
「何? はっきりしねぇヤツだな。」
この後はシランドに帰るだけで用事はないが、今日中にアリアスまで行くつもりでいた。
もう夕方だし何処かで一泊するなら、アリアスの屋敷に泊まろうと思っていた。気を使う必要がないし、何しろ無料(タダ)なのがいい。
そんなネルの予定(?)に構わずにアルベルは、
「暇ならメシにでも付き合え!」
「・・・・は? ・・・・ちょっと!!」
ネルの腕を掴むと強引に歩き出した。いきなり引っ張られてネルはバランスを崩し、
その拍子に、もう片方の手に握られていたダガーがアルベルの顔の前を掠める。

「危ねぇな! いつまで、ソイツを出してるつもりだ! 」
ハッとなり、握ったままのダガーをあわてて腰に戻す。
「ねぇ、ちょっと! 何処へ行くつもりだい!?」
「うるせぇ! メシだと言っただろうが。黙って付いて来い。」

何を考えているんだ? この男は!?
メシ? 何で私がコイツと食事なんか・・・・!?

困惑するネルをお構い無しに、アルベルは勝手知る街の路地を抜けて行くのだった。







 



 




スーミマセン、7日続きます。(話が!)
引ったくりにあう、隠密23歳・・・。アリエナイ。とおもうんですけど。ま・いいか。

あと、誤字脱字とか、なんかいろいろありそうなんですけど。全部終わった時に見直します。

 

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