4 Day





気が付くと、朝だった。


それも、陽がだいぶ高い位置に来ている朝だ。もう昼だ。
部屋の中を見渡す。自分の部屋でないのに気が付き、すぐに昨夜の事を思い出す。
そうだ、ここはアイツの部屋だった。

昨夜カーテンをきちんと閉めてなかったせいで、
まぶしいくらいの日差しが部屋の中を満たしていた。


「あ・・・。雨は上がったのね。」


人の部屋で寝過ごすなんて・・・・。しかし、なんだか頭が重い。だるいし。
まさかあの量で二日酔い? それとも雨で濡れて風邪でもひいたかも。
ネルはベッドから這い出し服を着た。
服は殆ど乾いてなく、気持ち悪かったが仕方ない。

自分が使ったベッドを整えてから、隣の部屋に行くと、アルベルの姿は何処にもなかった。
一言お礼くらい言おうと思ったのに。
まぁいい。きっと自分はひどい顔をしてるだろうと思う。

知ってる顔に会わないウチに、さっさと帰る事に決めた。




外へ出ると想っていた以上に日差しが強く、ネルはそのまぶしさに目を細めた。
昨日の嵐が、ウソのようだ。


「ネル様!?」
聞き覚えのある声に、ドキっとして振り向く。
部下のアストール。
さわやかな笑顔で近づいてくる。
「おはようございます。どうしたんですか? こんなところで。」
「どうって・・・・。アンタこそ、何してるのさ?」
「何と言われましても。偵察を兼ねた朝の散歩です。日課ですから。」
偵察!? 確かにこの街は風雷の駐屯地。いや、でも ―――――。

「戦争は終わったのに?」
「えぇ、でも。引き上げ命令は、どなたからも来ませんし。なら任務ですから。
 でも最近は風雷の連中も特に何もない様子で、暇なのか私に気安く話しかけてくるんですよ!
 私はあくまで隠密行動を取っているというのに!!」

「ふーん、そうなの。」
さも当たり前のように悔しそうに言うアルトールを、ネルは少しバカじゃないかと思った。
引き上げさせるとか、そういった命令は自分が出さなくてはならないと言う事を無視して。

「ところで、ネル様、今あそこから出てきませんでした? 確かあそこは・・・。」
「え?」
今までネルが居た部屋を指差しながら、アストールが怪訝な顔をする。

「確か漆黒の・・・・・・。」
アストールの口から、続けてアイツの名前で出る寸前でネルは一歩踏み出し遮った。
「アンタ・・・・、判ってると思うけど、この事は・・・・。」
低い声で、脅しかける。
コイツは以前もアホな噂を真に受け、自分の怒りを買ったことがある。確かその時は半死状態にしてやった。 忘れたとは言わせない。
「また同じ目に遭いたくなければ・・・・」
「わかってますよ。大丈夫ですって!」
アストールはにっこりと頷く。
「あ・そう。・・・・・わかってるなら、いいんだよ。」
本当に判っているのか、不安を抱えながら、カルサアを後にした。




昨夜の雨は、結構な範囲で振ったらしく、アリアスでも至る所に、大きな水溜りや泥濘が出来ていた。



「まぁネル、ご苦労様。昨日のうちに戻るのかと思ってたわ。」
領主屋敷に入るとクレアがまずそう言った。
「そのつもりだったんだけどさ・・・・・。いろいろあってね。」
会議室として使っている部屋に入り、いつも自分が座る椅子にそれぞれ腰掛ける。
「じゃあ、昨夜はカルサアに? 大変だったわね。 
 昨夜の雨、凄かったものね。カルサアの方は雷もひどかったみたいで。」
そして、一度言葉を区切ってから、
「でも、ならアルベルさんに会った?」
「え? あ・あぁ。会った。会ったよ。何故?」
いきなり思いもしなかった名前がクレアから出たので、ドキっとしてしまう。

「いえ、会えたのならいいのよ。一昨日、アナタがここを出た後、入れ替わりで彼が来て、
 アナタに用があるみたいだったから。一応ネルがアーリグリフへ向かった事は伝えたけど。」


ふーん。用事ねぇ。特に用事があるようには思えなかったけど。
昨日もそんな事ずっと考えてたけど、結局本当のところは良くわからない。
本当に訳のわからないヤツだ。


「ねぇクレア。アイツの事、どう思う?」
「え? アルベルさん?」
そんな事を言うネルを意外に思ったのか、まじまじと見つめながら、


「さぁね。第一印象は、聞いていた噂と多少違うな・・・って。
 でも最近は、その第一印象ともまた違ったかなって思うわね。」

「――― 私は、ますますアイツは歪んでいると思うようになったよ。」
ため息混じりで言う。

「あらそう? 私には、真っ直ぐで素直なタイプに見えるけど。」

「何言ってるの? どこが素直なのさ!? 何を考えてるのかサッパリだし。
 あんなヤツの事なんか、多分一生掛かっても理解不能だと思うね。」

「そう。ネルはそう思うのね。」
何故かクレアは強調するように、ゆっくりそう言って黙り込んだ。
「何よ?」


「ところで、ロザリア元気だった? 体調を崩してるって聞いてるけど。」

意図的に話題を変えた事に気付き、ネルはちょっとムッとする。
何よ、何なのよ? 全く。
「あぁ、元気だったよ。たいした事はないよ。というより相変わらずで疲れたよ。
 まぁ人の幸せな話を聞くのは嬉しい事だから大歓迎だけどね。」

「そう。なら良かった。彼女には頑張ってもらわないと!」
「何を?」

「ウチとアーリグリフとの友好関係は、全てじゃないにしても、ロザリアに掛かってるって事。」
あぁ、そうゆう事ね。

「そろそろココも引き上げようかと思うの。作戦本部をアリアスに置いておく必要も無くなったし。
 あとはアリアスの復興に必要な人数を残して一度シランドに戻る事にするわ。」
「―――― そっか。そうだよね。」
良い方向へどんどん変わっていくんだよね。


それから他愛もない話をしばらくして、ネルは屋敷を出た。
帰り際にクレアが、ネルに言った。


「ネル。アナタも人の幸せ話ばかり聞いてないで、自分の事を話せるようになりなさい。」
「・・・は? 何よ、いきなり。・・・・・話したくてもさ、ネタがさ・・・・。」
「だから、その相手を作りなさいなって言ってるのよ。まぁアナタに全くその気がないのなら、
 仕方ないでしょうけど。」
「・・・・・・・。」
言いたいことはわかるけど。そう言われてもさ・・・・・。何で急にそんな事、言うの?



「人はどんどん変わっていくものよ。アナタ、もっと素直になったら??
 でないと、取り残されるわよ。」





――――― なんだか、異様にキツい一言だと、思った。






 



 




あ・そうそう。
アストールの「前に一度・・・・」とか、このサイトにある、他の話での出来事デス。
気にしないで下さいナ。
あと3日・・・・。

 

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