5 Day





―――― アナタ、もっと素直になったら??


何故、クレアがそんなことを言ったのか、よくわからない。
別に意地になってる事など、思い当たらない。
彼女は時々、良くわからない事を言ったりする。
ワザとなんだろうけど、もっとはっきり言ってくれればいいのに、と思う。

長い付き合いだが、昔からそうゆうところはちょっとどうかと思ってた。


それから。




―――― オマエ、オレと居て嫌じゃないのか?

あれから何日か過ぎた今でも。
あの夜のアルベルの言った事が、耳に残っていて・・・・。

思い返してみると、
アイツの事を嫌だったのは、ホントに最初のウチだけだったような気がする。
命令とはいえ何でこんなヤツと一緒に行動しなければいけないのか、と反発していた。

それがいつの間にか、そんな事がどうでもよくなった。



ただ、なんとなく。
連れられて行った店の雰囲気とか、あの生活感のまるでない部屋とか。
雨の中を一緒に走った時の腕を掴んで引っ張るその強さとか。
いろいろ思い出して。

普段どう過ごしてるかなんて、まるで知らなかったので、その一部を知ったような
意外な、不思議な、奇妙な感情があった。
それが何なのか、よくわからない。モヤモヤしたような、ソレでいて・・・・・。




ネルがシランドの自分の部屋で時間を持て余していると、 施術士が来て、一枚の書状を手渡した。
差出人はロザリアで、何だか判らない苦情がツラツラと書かれていた。


 『先日はわざわざご苦労様でした。
  ネルが帰った翌日、お城の兵士にアナタの事を聞きました。
  どうして、親友のアナタの話を、名前も知らない一兵士の口から
  聞かなくてはならないのでしょうか?
  少し、かなしいです。』



―――― 何だコレは。
何かについて、恨み言を言ってるように見える。ただし、その「何か」がわからない。


無視しようかどうしようか考えながら、部屋から出たところにタイネーブが通りかかった。

「あ、ネル様。お疲れ様です。カルサアまで、また行かれるんですか?」
「ご苦労様。なんでカルサア?」
「だって先ほどアーリグリフから何か書状が来ていたようでしたから。」
後からファリンがやってくる。
「ネル様ぁ。お疲れ様です。」
「あぁ、ファリンも・・・・。」

「カルサアへ行くのでしたら、宜しくお伝え下さい。」
「誰に?」
「アルベル様です。」
「ちょっと!タイネーブってば・・・・ッ!」
ファリンがギョッして口を挟むのを構うことなく、タイネーブが続ける。
「私達も覚悟を決めました。あの方には、何度か手痛い目に遭わされましたけど、 過去は全て水に流す事にしましたから。」

何をこの子は言ってるんだろう。覚悟って・・・。ま・別にいいけど。

「あ・そう。あんた達がそれでいいなら、私は構わないけど。でも宜しくって、何??」
「これからは、ネル様も頻繁に向こうへ行かれるでしょうし。」
「そんな事ないよ、どうして?」
「だって、アストールさんが・・・・・。」
「バカ! タイネーブ!」
あわててタイネーブの口を両手で塞ぐファリン。
「その事はぁ、そっとしておいた方がいいって、あれほど・・・・ッ!」
「あ・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・。」

「は・・・・・。あはー・・・・・・ははは・・・・・。」
微妙な笑顔を向ける二人。


アストール・・・・・・・。

さっきのロザリアからの手紙と、繋がった。
私の話(噂)。どうせくだらない内容だろう。確かめる気もおきない。
まったく戦争が終わったからって、皆よっぽど暇とみえる。アホらしい。
かといってこのまま放って置くのも癪にさわる。
そして、その怒りは全てアストールに向けられた。
ネルは無言のまま二人をジロリと睨んでから、何も言わずに城を飛び出して行った。

残されたファリンとタイネーブは、大聖堂でひたすらにアストールの無事を祈った。
しかし、その願いはアペリスの神様には届かなかったそうな。。






カルサアに付くと、門兵(多分風雷の一兵卒)が声を掛けてきた。
「これはネル様。もしお時間があるようでしたら、帰りにでもウォルター様のお屋敷にお寄り下さいませ。」
「どうして?」
「用件までは伺っておりませんが、お見掛けしたら、そうお伝えするよう言われておりましたので。」

何の用かしら?

首を傾げながら、ネルはまずアストールの住まい(勝手に自分の住居にしている!)に向かった。
そして有無を言わさず彼を血祭りにしてやった。
暫くそこで、死にかけながら平謝りするアストールを眺め、気分を落ち着かせて、
それからウォルターの屋敷に向う事にした。




「ようこそ、いらっしゃいました。コチラでお待ち下さい。」
礼儀正しい風雷の兵士が案内したのは広ーい部屋。
いつも用事がある時は、直接彼の執務室に通されるので、ちょっと意外に思う。

大きなテーブルが中央にドンとあり、周りに椅子がいくつもある。
会議にでも使う部屋だろうか?

ネルは一度部屋を見渡してから、一番すみの角の椅子に浅く座り、背もたれに寄りかかって腕と足を組んだ。
ずいぶんエラそうな座り方だ。
暫くして、「古狸」ウォルターがやって来た。一人だ。

「で、何の用なんだい?」
「お茶でも飲むかね?」
「結構だよ。」
「良い天気じゃな。」
「あのね。世間話をするために呼びつけたのかい!? 怒るよ!?」
ウォルターはふうーっと息をつき、ネルとか対角線の角の椅子に腰を下ろす。
だだっ広い部屋に大きなテーブル。お互い一番離れたところに座る二人。
相当大きな声を出さないと相手に届かない。なんとも奇妙は雰囲気だ。

使用人が入ってきて、紅茶の注がれたカップをそれぞれに配ったが、 二人の座り位置のせいで
大きいテーブルを一周しなくてはならないから、大変だ。
一息ついてから、その老人は唐突に
「アルベルの事じゃ。」
「何?」
「アヤツの事、どう思う?」

・・・・。何言ってるんだ、この老人は?
「どうとも思ってないよ。 ソレが何!?」
アストールのせいもあって機嫌が悪いので、ついつい口調が荒くなる。
しかしウォルターは、然程気にしてないように、淡々と続けて言った。

「疾風の団長の席が空席のままなのは、お主も存じておるじゃろう。
 その後任の事なんだが。はっきり申して今の疾風の中にはコレといった人材がおらぬ。
 で国王とも話した結果、適材が決まるまでアルベルに兼任させようかという事になったのじゃ。」

「ふーん。」


アーリグリフも相当に人材不足とみた。

何もあんなヤツに3軍のウチの2つも任せなくても。
どうみても漆黒すら、きちんとまとめてないように見えるアルベルに。。
能力があるのかどうかは知らないが、好き勝手やっていて全然団長としての自覚がないように思う。
聞いた話じゃ最近は、漆黒兵の前にすら、あまり姿を現さないらしい。
どうせ何処かで特訓、とかやってるんだろうけど。

「しかし、ヤツはまだ若い。しかも一人身。
 それでじゃ、お主に聞きたかったのは、それについてどう考えているのか、ということだ。」

「・・・どうって。アンタらの人事に、何故私が口出せるのさ? 全く関係ないし、おかしいよ。」

「いや、その人事の事ではなくて・・・・。」

老人は暫く黙り、紅茶の飲んだり、独り言をブツブツ呟いたりして、ネルをイライラさせた。
耳を澄ますと、「全く、いい大人が・・・・。」とか「親父とは大違いで世話の焼ける・・・・」とか
「見てくればかり大きくなりおって・・・・」とか聞こえてくる。アルベルの事だろうか。



どちらにしろ。
なんだか重要な用件でもなさそうだし。

「あのさ・・・・。帰ってもいいかい? 帰るよ?」
ネルが席を立ちかけた時、ドアが乱暴に開いて、今まさに話題の男が入ってきた。

「来おったな。」

「何の用だ!? 呼びつけやがって! くだらねぇ用なら余命を縮めるぞ?」
アルベルはウォルターの向かいの席に座り、その並びの一番端にネルが居る事に気が付き
怪訝な顔をする。
「何でテメェがいるんだ?」
「何でって・・・・さ・・・・。」
この間の事もあるので、なんとなくアルベルを直視する事も出来ない。

と、老人の一喝が部屋に響き渡った。
「バカモン!」

「あぁ?」
間の抜けた声。
「いい年にもなって、お主、己の事も満足に出来ぬのか!!」
「・・・・・・?」
いきなり怒鳴られて訳が分からない様子でウォルターを見上げているアルベル。
ネルもぽかんとして老人を見る。

唖然としてる二人に構うことなく、一人興奮気味の老人は、くるっとネルを向くと、
いきなり
「こんなどうしようもない小僧じゃが、どうか宜しく頼む!」
と頭を下げたのだ!!!


「・・・・・・・・!!!?」
ネルは呆気に取られ言葉を失った。
アルベルはギョッとして固まったが、一瞬後に立ち上がり、ウォルターの胸倉を掴みあげ、
「テメェ、何言って・・・・・・・・ッ!」
しかし言葉が続かない。口をパクパクさせている。

老人はアルベルの腕を振り払い、後頭部を掴んで押し下げ、
「オマエも頭を下げんか!!」
と怒鳴れば、アルベルはその手を更に振り払って、義手の方で爪を立ててウォルターの頭を
掴みあげる。
顔を歪める老人。金属の爪が皮膚に食い込んで痛そうで、ついネルも顔をしかめる。

「ふざけんな・・・・、ブッ殺すゾ・・・・!!」
「何をエラそうに!! 惚れた娘に自分の気持ち一つ満足に言えない小僧が・・・・・ッ!!!」
「何だと・・・・ッ!!!?」



これは何だ? この二人は何をやっているんだ?
芝居なのか。茶番なのか。狂言か、それとも何かの陰謀か策略か!!!?

「ふざけんなよ! ヨリによって、何でコイツを・・・ッ! 」
「お前もいい加減、ハラを決めろ!!」

ヨリによって、ってどうゆう意味だ!? 他の誰かならいいって訳?
失礼な。
こんな事の為に、自分を呼んだのか。
まさか。ひ・暇つぶしなのか!? 


つまり。

  つまり、アルベルにそれなりの地位を与えるかわりに、いつまでも一人フラフラしていないで
身を固めろと。
そしてその相手にたまたま都合よくいたのが、自分だったと。
多分、アストールが振りまいた噂でも耳にして、何か勘違いしたんだろうけど。
(それはロザリアの耳にまで入るほど、こっちでは広まっていると。)

ネルは目の前で展開される出来事をだんだん理解し始め・・・・。



「バ・バカじゃないの!? アンタ達・・・・・!!!!! 」

それだけを、やっと声にすると、部屋から飛び出した。












 



 




展開にちょっと無理ありました。(苦笑。
二人(F・T)の服、こんなでしたっけ?

 

>> 6 Day