6 Day





ウォルターの屋敷から飛び出して、そのままの勢いで街の東門を走り抜けて。


走って。
走って。


アリアスを囲む塀が見えてきたトコロで。
ネルは足を止め、ヘナヘナとその場にしゃがみ込んだ。

そして。
陽が沈みかけ、オレンジに染まりかけた空をボーっと見上げて。


少し。

少しだけど。
アイツの事を知ったような気がした。
それは嬉しかった、のかもしれない。


少し見直して、無意味に避けたりせず、もう少しアイツと向き合ってみようかと思い始めていた。




それが。


全くバカにしてる・・・・。
ふざけるにしても、限度がある。


どうでもいい事だが、ネルはウォルターの事をアーリグリフの重臣としてそれなりの高い評価を持っていた。
しかし今回の件で、その評価は地にまで落ちた。


―――― ただの、暇でアホなボケ老人。

自業自得だ。





それから。
もう一人のバカ・・・・。


「おい。」

背後で、そのもう一人のバカの声がする。
横目でチラリと見ると、ルムに乗っかったまま見下ろしてるバカ。

私はココまで走ってきたってのに、アンタは乗り物ってわけかい? ふん。
心の奥で悪態をついてみる。

「・・・・・・。」

背後の、ルムから降りる気配を無視し、帰ろうと立ち上がりかけると

「さっきのアレは・・・・、悪かったな。すまねぇ。」

いつもとはまるで違う沈んだ声。

その声に反応し、ネルは振り向き様、右手を振り上げ殴りかかった。
しかしその腕はアルベルの義手に掴まれ、続けて上げた左手も簡単に掴まれる。

「・・・ッ!」
両手を掴まれたまま、ネルは今度は右足を蹴り上げ、その膝が何の防護もされていない、
あからさまに無防備なアルベルの横っ腹に直撃した。

「・・・・くぅ・・・・ッ!」
アルベルは顔を歪め呻いたものの、痛みを堪えて掴んだネルの腕を放なさない。。


「何で謝るのさ? 謝るって事は、さっきの狂・・・・。」

一旦言葉を区切り、

「さっきのアレは、アンタも了承済みだったって事!!?」
「いや・・・・。」

「じゃあ、謝るんじゃないよ! いつもはエラそうで、そう簡単に人に頭なんか下げないのにさ。」
「・・・悪ィ。」

「だから!」
「・・・・・。」





「・・・・・・・・ウォルターは?」
「さぁな。生きてりゃ今頃は医者に担ぎこまれてるんじゃないか?」
「・・・・・・・。」
ネルはウォルターの頭に金属の爪が食い込んで血が出ていた光景を思い出す。
しかし、そんな事どうでもいい。


「アイツのとんだ思い違いで・・・・。全く何を考えてるんだか。ボケる方がまだマシってもんだ!!!」
「思い違い、ね・・・・。」

ズキン。



「オマエが怒るのはわかる。この間の事が原因で下らん噂まで・・・。」

そりゃアンタにしてみれば、下らない迷惑な噂だろうね。
「ヨリによって」、こんなアタシだしね。そんな事も言ってたっけね。
出世とかにも、まるっきり興味なさそうだしね。

悪かったね。

しかも、それにはウチの部下も関わってるし。そこはきっちりカタは付けたけど。
ホント、迷惑な話だろうよ。
もちろん、私だって迷惑してるけどさ。
でもそれは噂がどうとかじゃなくて、こんな事で呼び付けられたり、アンタに謝られたりする事の方が・・・・。


あぁ、もう。

ため息が出る。


「・・・・・・。
 別に怒ってなんか、ないよ。」


少し顔を上げ、アルベルをチラと見て


「ものすごく呆れたけどね。それから・・・・・。」

もう一度息を付き、目を伏せる。



「少し、傷ついた・・・・・・・。」


「・・・・・・!?」

自分が何故、そんなふうに思ったのか、よくわからない。
2・3発、コイツなりあの老人なりを殴り飛ばせば済む事の様にも思う。
けど。何故かそんな気にならない。

「手、離してくれる?」
「あ・あぁ。」


どれほど強く掴んでいたのか、手首に赤く跡が残っている。
それを撫ぜながらネルは。

「当分・・・、暫くは・・・・。いや金輪際、二度とカルサアなんかに行かないよ。」

そう呟いて。目の前のアリアスの中へ入っていった。
取り残されたアルベルは黙ったまま、その姿を見送っていた。












 



 




次でおわりだー。

つか絵、身長差、変よ。おかしいな。考えながら描いてたはずなのに。
そして全身絵を描く度に、ますます深まるアルベル氏への疑問。
この人は、自分の好きでこんな服装をしてるのだろうか?・・・それとも何かの陰謀なのだろうか。

 

>> 7 Day