空色のうた 2




戻るまでに考えておくよ。

確か自分は、そんな事言った。
アレから一月(ひとつき)以上は経っている。

もうすぐ、国境が見える。
国に戻ったら、まず。答えを出そう。いや、答えは出ている。
自分の心を決めるのだ。

空気を裂く風切音と
一瞬後に、痛み、というよりは、衝撃、そして熱。


背後からの衝撃に、ネルはよろめいた。。
クナイのようなものが、足元に転がる。
「ネル様!?」
剣を握る腕に痺れが走る。
袖から赤い筋が流れ、ゆっくりと、手の先、そして剣の先へ続いていった。
あぁ、肩に傷を受けたのか・・・。膝を付き腕を確認する。
意外と冷静に眺めてから、後方へ視線を向ける。
「やはり、気づかれていたね・・・。」
タイネーブが、無言で傍にしゃがみ、ネルの腕を心配そうに見てる。
たいした出血とも思えないのに、腕のしびれが酷い。
・・・・・・何か、仕込んでるってわけか・・・。やってくれるじゃないのさ。
「・・・・・・国境を越えれば、最初の街でファリンが待機してる。何としてもそこまでは・・・。」
何処から尾行(つ)けられていたのか?
背後には注意していたはずなのに。
・・・違う。もっと別の事を考えていた。・・・任務中に。
「タイネーブ、ここで別れよう。」
「ネル様? ですが・・・。」
「別々に国境を目指すのさ。
いいかい? 戻らなきゃ意味が無い。どちらでもいい。二人して戻らないわけにはいかないんだよ。 もし、私と合流できなくても、ファリンと一緒にシランドまで戻るんだ。見てきた内容を陛下達に伝えるんだよ。 もし逆なら私ももうする。」
「・・・わかりました。このまま、真っ直ぐ国境を目指します。」
力強く頷いたタイネーブを確認し、ネルは立ち上がった。



一月程前、ネルは部下のタイネーブとファリンを伴い、ぺターニから東へ進み、国境を越えた。
隣国が密かに、軍を整備しているとの情報がもたらされたからだ。
それが事実なら、何のための軍備か、その規模、指令系統、首謀者。
その調査が、任務だった。
結果。それは明らかな強兵政策であり、それを推進しているのはタカ派の有力者達だった。
早く国に戻り、手を打たないと。
国交は一見、まだ正常だ。今ならば、外交という手段で解決するだろう。




タイネーブとは逆の方へ、追っ手を自分に引き付け、何人かを負傷させ、足止めには成功した。
「もう、来ないようだね。」
街からも離れた森の中だ。風邪が通る音しか聞こえない。
辺りの気配を確認してから、国境の方を見る。
「さて・・・。戻るとするか。」
歩き出して何歩かで、ネルの足は止まった。
そしてゆっくりと膝を付き、そのまま。

「あ・・・。」

そのまま、前に崩れていった。
やはり、毒・・・? 

薄れていく意識の中で、


戻ったら返事するって、言ったのに。
自分の言った事も守れないって思われるのは、嫌だな・・・。
きっと。阿呆って、言われる・・・。


そんな事を考えていた。

 





任務の内容なんて、なんでもいいんですよね・・・。
 

 

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